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「う……ぐ……ぁ、ああ?」
血だまりの中で目を覚ます。身じろげば私の血が土と絡まってニチャぁと音を立てた。
半分しかない視界でぼんやりと視線を彷徨わせる。月明かりが薄っすら照らす地面、真っ直ぐ先には肘から千切れた右腕が、視線を下げればひしゃげた足とつぶれた足が一揃い、胴体からも色々零れている様子でもろもろが丸見えだ、ていうかこれ首も取れてるな? 視界の角度がおかしいぞ。
「ふっ……にゅぅ……!」
首から離れた胴体を動かす。メキョメキョと両足が蠢き真っ直ぐに繋ぎ直され起き上がる。零れたあれこれを押し戻そうとして右腕とついでに左腕も手首がない事に気が付く。このままでは動けないので手指を動かして器用に手だけで歩かせて体にくっつける。
「よいしょっと」
そして両腕で頭を持ち上げて……はい完成。
「よし、これで元通……っとと……うう、血が足りない……ふらつく……ていうかまだ全然色々散らばってるし……どうしてこんな事に……?」
散らばるパーツを拾い集めながら記憶を辿る。
私は悪魔だ。
人間なんかとは体の丈夫さも生命の強度も全然違う。体がバラバラにされる程度のダメージなど大したことではないのだ。
……だからって、その悪魔の私がこんなにバラバラになっているのは普通じゃない。ロケット砲でも食らわないとこうはならないと思うんだけど……凄腕のお坊さんにでも襲われた?
……どうしよう、何も覚えていない。そもそも私は何でこんな所にいるんだっけっていうかここ何処?
「人間界……の公園? よね。あ、あばら骨ゲット。私人間界に来てたんだっけ……ああ尻尾、通りで落ち着かない訳ね。幸い人気はないみたいだけど……うわ、耳まで取れてる。こんなの見られてたら大騒ぎよね……あ、おっぱい。うう……ただでさえ大きくないのに削れたらどうしてくれるのよ……」
目に見えるパーツを拾いきり血も吸収して今度こそおおよそ元通りだ。いえ、ちょっとダメージが大き過ぎたみたいで傷が治りきってない部分もあるのだけど。大したことあるダメージじゃないの……
「ううーん? ここまでの惨状を晒して、いくら何でも記憶にないのはおかしいと思うのだけど……脳みそとか零れてないわよね?」
ぐいーっと頭をひねり、そこで視界が未だに半分な事に気づく。
……左目が無くない?
「え? あれ? 何で? 目ェ!?」
バッと地面に屈みこみ探し回る。転がったのかと茂み植え込みベンチの下、激しく這い回るも見当たらない。無い。私の左目が無い。
「落とし物ってレベルじゃないぞぅ私……! ええ……どうしよう、カラスにでもつつかれて持ってかれちゃった……? ううー……あ、そうだ」
繋がっていなくても私の体。左目に意識を集中して目を凝らしてみる。
「うっ、ぅう……うう? 眩し……街の方? あっかる……」
チカチカしてよく見えなかったが、見えたのは明るい電飾と人間の渦。どうやら街の中心の方、夜でも賑わうあの光の群れの中に私の目はある様だ。
となると人の前に出て行かなくちゃいけないんだけど……
「ううん……悪魔が堂々とあんなとこうろつく訳にはいかないよね……角も尻尾も隠せないし……肌は……ちょっと色白なだけって言ったら誤魔化せるかな? あっ」
そう思って全身見返してみるとそもそも怪我が治りきっていなく、切断跡だらけ傷跡まみれで血も滲んでいた。服もボロボロで泥まみれである。
……これじゃ人間でも目立ちまくるよね。
「ええっと、代わりの服……ポケットに入ってたっけかなぁ」
ブォンと空間に手を突っ込みゴソゴソと漁る。悪魔の空間収納には何でも入るとはいえ、ごちゃごちゃするのは好きじゃないので私はあまり多くの物を入れていないのだ。それが今日は裏目に出てしまった。
「ええと……あ、あったあった。あーでもこの薄着だけかぁ。怪我とか尻尾は隠せないな……どうにかならないかなぁ、あるのは……槍、魔石コレクション、羊皮紙、アイロン、ソーイングセット、金タライ、、塩、エプロン……これじゃ隠せないわね……インプちゃんに借りたマンガ、、サキュバスちゃんに押し付けられた紐……もとい水着、マミーちゃんすぐ転ぶから応急セット、非常食のどら焼き、おいしいのよねこれ、ふふ……じゃない、ああもう何もないじゃない。いっそコスプレって事で誤魔化せないかな…………コスプ……ああ、それだ!」
そう、そうだ! 今日はあの日じゃない。
だったら必要なのはアレをこうして……
「んよっし、待っててね私の左目……!」
――この日、十月三十一日。
魔物で溢れかえる商店街に、本物の悪魔が降り立った。
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