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街を歩いてみればそこは見覚えのある、前に来たことのある人間たちの大きな街の一つだった。
前に来た時も人間多いなぁと思ったものだが、今目の前で起きているものを見た後だとその記憶も霞んでしまいそうだ。
「うっわぁ……聞いてはいたけどこんなに人が来るんだ……!」
目の前を行きかう多種多様の人間たち。
魔女に狼、ゾンビにミイラ、犬耳猫耳狐耳、魔法少女・騎士・アイドル・宇宙人……それに悪魔、そしておばけとカボチャ。
今、街はハロウィンナイト。カボチャと仮装に溢れたお祭り騒ぎなのだ。
「おぅ嬢ちゃん、かなり気合入れてるねぇ」
「やっほーおじさん。どう、正に本物でしょう」
近くのお店の宣伝に道先でお菓子を配っていたおじさんに話しかけられたのでにこやかに対応する。悪魔だってばれないコツは普通に接することなのだ。ちょくちょく人間界には来てるから慣れてるしね。
「ミイラ……いや悪魔? 何にしてもすごいねぇ特にその羽」
「ふふーん、悪魔のミイラなのです。トリックオアトリートー」
「あっはっは欲張りな嬢ちゃんだ。そんな欲張りさんにはお菓子も沢山あげないとな」
「わ、ありがとうーおじさん。あ、このカボチャチョコおいしそう」
「だろ? そこの店で買い物すると更にサービスで付いてくるよ。それにしても嬢ちゃん綺麗な髪だねぇ。地毛だよね、日本語上手いけどハーフとか?」
「生まれはともかく日本で過ごすことは多いのでー、結構慣れました。このハロウィンもね?」
今の私は角も羽も尻尾も丸出しの銀髪悪魔。だけど周りが周りだからこのままの格好でも私はただの悪魔っ子にしか思われない……!
そして全身あちこち包帯ぐるぐる巻きの上からゴシックな服を着て、更に片目までも包帯でを覆われているくらいでも、今日なら『まあそういうものかな』で済まされるのだ!
その左目を指しつつ聞いてみる。
「ところで実は私左目落っことしちゃったんですけどどこかで目玉転がってませんでした?」
「はっはっはっはっはそりゃぁ一大事だな。もし拾ったらしっかり取っておかなくちゃ」
「ふふふ、お願いしますね大事な物なので」
当然キャラのなりきりジョークと思われて真面目になんて取り合ってくれない。まさか本気で聞いているとは思わないだろう。とは言え、生ものの目玉なんて見つかってたら大騒ぎになるだろうから、この和やかな反応だと近くでは見つかってないだろう。
「そもそも何で左目だけこんなに遠くに来てるか謎だしなぁ……いくら丸いからって転がるようなものでもないし……偶々吹っ飛んだ……?」
謎と言えばそもそも私の置かれているこの状況が謎なんだけど。割と呑気に過ごしているけどさっきまで血まみれで倒れていたのを忘れてはいけないぞ私。左目もだけど、そっちの理由も探さないと。
とはいえ何処を探せばいいかも分からずただ街をブラブラしていてはハロウィンを満喫しているだけになってしまう。
もう一度、今度は周りの風景を良く見渡そうと左目に意識を集中し、離れている片目の視界を開く。
「ん……んんー……? 良く見えな……何かフラフラして……不安定なところにある?」
妙な視界だった。
何処かに落ちているならただ一点を見て動かないだろう視界がまるで船の上にいるかのように上下左右へとふわふわ動き回っている。自分は動いていないのに視界だけが揺れる認識の齟齬に気分が悪くなりそうだった。
そして見える範囲も何かに遮られているようで多くのものが見えない状態で、それらが重なり得られた情報はとても少ない。
とりあえず、
「ぎりっぎり視界に見えたのあの目立つ建物だよね……ならやっぱりこの近くなのは間違いはない」
この近辺で最も高い建物、それが揺れる視界の中でも確認する事が出来た。何処から見ているか、まで当てるのは厳しいが、これだけでも大分調べる方向は絞れる。
「後は動き回って近づいたら気配できっと分かる……はず。だから……あ、お姉さーん、トリックオアトリートー!」
……ちょっとくらいハロウィンを満喫してもいいよね!
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