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清美はバタイユと初対面した時、思った通りオジサマって感じと思った。
実際、チェックのベレー帽とチェックの肘あてジャケットの組み合わせ、それとグレーのスラックスとホワイトのローファーの組み合わせは小粋なコーデと言えなくもなく、皴が深く髭を蓄えた容姿と小太りで大柄な体は貫禄があった。
一方、ベージュのタイトワンピースによってウェストのくびれと大きなバストが強調された清美の姿を見て、「いやあ、写真より断然、素敵だ。きっと脱いでも申し分ないに違いない」とバタイユは太鼓判を捺した。
で、自信満々になり、ほくそ笑んで一ヶ月で百万円という好条件がこの上ないお宝のように目の前にちらついた清美にバタイユは名刺を差し出した。「聞いたことがないでしょ」事実、彼は無名の画家だったが、目は野望に満ちていて脂ぎった髪同様、ぎらぎらと輝いていた。大家になろうとする並々ならぬ意欲の表れだった。
清美は徒でさえ芸術には疎いのに無名とあっては首肯せざるを得ない状況に陥ったが、はいと答えるのは失礼だから答えるのに窮して、「い、いえ・・・」とくぐもる。
「へへ、いいんですよ。無理しなくても。しかし、私は確信しました。あなたを描けば、比類なき傑作が生まれると。そして私は必然的に有名になると。ひひ」バタイユは言葉尻で意味ありげに笑ったのだった。それは狂喜が変態性欲を押さえつけるような笑いだった。
その気色に清美は背筋がぞくぞくっとして危険な香りを感じると同時に彼には本当に自信があるように思えた。
二人は丁度、親子ほどに歳が離れていてバタイユは48歳、清美は23歳なのだが、終始、親子とは一線を画す親しみに繋がれた儘、お茶をしてバタイユの家に行くべくジョルジュを出た。
清美はジョルジュが近所だったので歩いて来たのだが、バタイユはフィアット500で来ていた。彼は清美を助手席に乗せてドライブしたいが為に自分にとっては遠方で彼女にとっては近場のジョルジュで会う約束をしたのだ。
清美は車を見てもお洒落だわと思い、素敵なオジサマという印象を強め、益々バタイユを気に入った。
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