第3章【放棄】

4/4
前へ
/42ページ
次へ
「そうだよな…僕なんて、人のこと言えたりしないよ」 本当に人の皮肉なんて言えない。 自分だってそうだ。同じような人間が同じような人間の悪口を言ったからって、結局それも自分のことを言っているのと同等の物だ。 「じゃあそうするのはやめよ?」 偉そうに命令しているが、でも僕は嫌気を覚えなかった。僕のために言ってくれている。こんな僕のためにー。 「わかったよ、わかった」 いつもこうして喧嘩を避けていった。 もうこれ以上誰かと喧嘩はしたくなかった。あいつが言うに、「利己的な考え」はできるだけ避けたかった。 とはいえ人間なんて結局は自分のことしか考えない。 自己満足のために生きて、自己満足のために他人を動かし、同じ満足を求める人を仲間にして、弱肉強食の世界を作り上げてきたのだ。 地に追いやられた時こそ、自分が良ければ他人なんてゴミのようなもんだと、自己利益のためにしか動かない。 僕も人間だから、利己的な考えしかしない。 たとえそれを叩かれたとしても、認めたくなくても結果的にみんな自己中心だから、なんとも気にしていない。言われたって、君も僕も人間だから、同じような物だと、今となっては怒ることを極力拒否している。 怒ったは怒ったって、何になる? 性格なんて変わらないし、結末は死の一択だし、それなら「お前も人の事言えない」と心の中で嘲笑して無感情に接してた方がまだ重くならない。 一瞬にしてそう考えては、身が少し軽くなった。 僕は常にそうして自分の感情を戻していた。それ以外の思考変換はなかったのだ。その時の僕はまだ、これで正気を取り戻せていた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加