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11、学祭
兄が通う、大学の学祭に始めて来てみた。
宗護は弓道部の合宿中だし、何より覚兄ちゃんに会いたかった。
「ヒッカ〜!」
「覚兄ちゃん〜!」
待ち合わせ場所にいた覚兄ちゃんは、全然変わって無くてほっとする。
少し薬品の匂いがするけど、大好きな覚兄ちゃんのままだ。
「久しぶりのヒッカだぁ。なんか大きくなったね?ますます綺麗になったし」
「俺、背伸びた?ちょっとでも嬉しいな」
「笑うヒッカも可愛い!あーっ宗護君は幸せ者だよ!こんなに可愛い番がいるなんて」
顔を手であちこち触られて、くすぐったさに笑みが溢れる。
たまに家に帰っても、覚兄ちゃんには会えない事の方が多かった。
「あはは。兄ちゃんも元気で良かった」
「久しぶりだもんね」
「うん。ごめんね。さ、兄ちゃんの大学案内してくれるんでしょ?」
「そうだね!じゃあ行こ」
二人でキャンパスを歩いて回る。
ダンスサークルや軽音楽、ブラバンなど、様々なサークルが日頃の発表をしている。
大学生になったら、宗護は引き続き弓道をするんだろうか。
それともピアノが弾けるから、音楽かな。
俺はサークルも良いけど、バイトをしてみたい。
…てかバイト、させてくれるよな?
コーヒー屋さんがいいなぁ。泡で絵を描いたりしてみたい。
「兄ちゃん、ほんと広いね」
「うん。もう町かなって俺もたまに思う」
たくさんの建物が建っていて、迷子になりそうだ。
きょろきょろ見ていたら、近くの屋台で売り子をしていた男性がこちらに向かって歩いて来た。
「覚〜!弟君に会えたんだ?」
「うん!弟のヒッカだよー」
「こんにちは」
「可愛いね〜楽しんでいってね。はい、これはサービス」
ワッフルを渡されて受け取る。
ふわふわで美味しそうだ。
「ありがとうございます」
手を振って別れて、兄ちゃんとまた学祭を見て回った。
大学は宗護と同じなら良いな、と思っているけど、現状、学力ではまだまだ努力がいる。
理系に進みたいけど、何がしたいかはまだ分からない。
俺が好きものってなんだろうか。
「ねぇ、ヒッカ。宗護君は優しい?」
「どしたの突然?宗護はいつも優しいよ?」
「良かった。俺がしている研究ってさ、運命の番を分からなくしてしまうんじゃないかって、最近思うんだよね」
思い詰めた表情の兄に、掛ける言葉を考えた。
兄ちゃんは俺の為にΩのヒートに関する研究の道に進んだ。全ては俺の為に。
宗護に出会い、兄ちゃんの研究結果を試す機会は無くなったけど。
「子どもの頃さ、ヒートを起こして街中で暴行されかかった人を見たんだ。すごく悲しそうだった。あんな風に悲しい顔をする人が減る為にも兄ちゃんには頑張って欲しいな。俺だって宗護がいない時にヒートが起きたらさ…どうなったか分からないんだし」
「そうだね。。うん」
「それに運命の番に出会ってヒートになっても、中にはもう好きな人がいてヒートを鎮めたい人もいるかもしれないよ?」
俺は好きな人が居なかった。
そして宗護を好きになった。顔も性格も、全部好き。
αだから、運命の番だから好きなんじゃない。
宗護だから好きなんだ。
「恋をすると綺麗になるって言うけど本当だね。今のヒッカは綺麗で強くなったね」
「それは身内の欲目ってヤツでしょ?」
「そんな事無いよ。ヒッカは可愛くて優しい自慢の弟だよ」
「えへへ。ありがと」
兄ちゃんは、自分の進む道を歩いている。
宗護もそうだ。
俺も、もっと考えなきゃ。
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