2、チョコレートの罠

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2、チョコレートの罠

 パッとモニターに映ったのは壇上だった。  タキシードを着た嵯峨さんが英語でスピーチをして、宗護と黒崎も後ろに控えている。 「まずは去年、桐峰に来た海外の姉妹校生との交流会の時の映像ね」 「龍之介様、カッコいいです」 「ありがと。芳春にも見せたくて」  俺と会う前の宗護だ。  ラフに崩した前髪に黒いタキシードは惚れ惚れするほど似合っている。  嵯峨さんも黒崎もめっちゃ格好良い。  スピーチが終わると立食パーティーらしく、世界各国のαが談笑する。  嵯峨さんと宗護はずっと一緒に行動していた。  入れ替わり立ち替わり、色んな人が二人に話しかけにくる。  英語、中国語、ハングル?あとなんだ?何カ国が話せるのか聞いた事も無かったけれど。  俺の疑問が分かったみたいで、嵯峨さんが解説してくれた。 「基本はみんな英語なんだけどね。みんな母国語で会話したがるから、わざと英語を使わなかったりするんだよね。  さっきのはスペイン人のシプリアノ、今の赤いスーツはフランス人のアラン。隣にいる白いスーツはイタリア人のディーノ」 「…そっか」  それまでは次から次に人が入れ替わっていたのに、フランス人とイタリア人だけは嵯峨さんと宗護の近くにいた。 「…ふーん」 「あ、密ちゃん妬いてる?大丈夫、高山は密ちゃん以外、人間だと思って無いから」 「えっと、宗護とずっと一緒なんですね」 「万が一が無いとも限らないからね。俺は芳春以外の番は要らないし、高山も運命の番を探していたからさ。うっかりハニートラップに引っかから無いようにしないと」  ハニー?トラップ?  αの世界こっわ! 「まぁ楽しくは無いけれど、こんな事もしてるわけだ。あ、ジュースとチョコ食べよ」  嵯峨さんは台所に立つと、あっという間にアルコール無しのカクテルを作ってくれた。  ワイングラスに浮かぶ林檎や檸檬がお洒落だ。  チョコは大きな箱に小さいチョコがたくさん入っていて、どれも凝っていて可愛らしい。 「はい、どうぞ。芳春も」 「ありがとうございます」  渡されたグラスを受け取り、チョコも貰う。口に入れると甘い香りと口溶けが広がる。  どこか別人を見るような気持ちで画面の中の宗護を見る。  笑顔だし綺麗だし、フォーマルな装いがめちゃくちゃ似合うけど別人みたいだ。楽しそうな様子が微塵も無いからだな。    次の映像の始まりは、外にある舞台の上だった。  少し騒ついていた観客席が次第に静かになったかと思うと、弓と矢を持った袴姿の黒崎、宗護、嵯峨さんが画面に現れた。  白い上衣に黒い袴姿。  これ以上無いほど宗護に似合っている。 「これね、去年の団体戦決勝の時」 「き、弓道?」 「うん。密ちゃんを見つけたからって、高山は弓引きを止めてしまったんだけどね」  苦笑いをして嵯峨さんは言うと、画面を見つめた。  その瞳はどこか苦しそうで懐かしそうで…  俺と出会って止めたってなんで…?  不敵な笑みを浮かべて黒崎が弓を引くと、小気味良い音を響かせてパン!と矢が的に当たる。  宗護は無表情過ぎて何を思っているのか分からないけど、流れるような動作で的に当てた。  嵯峨さんもいつも通り、柔らかく微笑みながら何でもない事のように的に当てた。  宗護は怖いくらい無表情で、感情が分からなくて…  二射目は嵯峨さんが外し、三射目は黒崎が外した。  対戦相手も二射外し、四射目。  黒崎の力強い矢が的に当たる。  宗護は一瞬、目を瞑ると静かに弓を引き、吸い込まれるように矢は真ん中に当たった。  俺は弓道の作法なんて知らないけど、すごく綺麗だ。  嵯峨さんも静かに的に当てた。  相手は一人外し、桐峰の勝ちだ。  サッカーや野球、バスケやバレーボールなんかとは全く違う世界がそこにはあった。  勝ったのに、ただ静かに勝利を受け止めている。  三人は来た時と同じく、舞台を去って行った。 「どう?中々でしょ?」  嵯峨さんに聞かれたけど、今の宗護との違いにただ驚くばかりだ。  嵯峨さんがチョコを俺とヨッシーの口に入れると、自分も食べた。 「俺はね、高山が密ちゃんを見つけて、本当に良かったと思ってるんだ。でも見つかったら弓道は止めちゃってさ。番が出来る事は言い表せ無いほどの喜びだから、頭が沸いちゃうのもしょうがないと思っていたんだけどね」  肩を竦めて笑ったけど、嵯峨さんは急に真剣な顔になった。  見つめられてドキっとする。 「もう一度、高山と弓をやりたいんだ。アイツがいない試合はつまらないからさ。まぁ、密ちゃんにメロメロになっちゃって、今の高山じゃ俺の敵じゃないかもしれないけどね」 「そう…なんですね」  宗護の知らなかった一面を知れて嬉しいけど、弓道…弓道かぁ。。  部活に一生懸命に取り組む事は、素晴らしいと思う。  俺との時間は減っちゃうけど、弓道をやる宗護はぶっちゃけ見てみたい。  映像でこんだけ格好良いんだから、生で見たい。  でもなぁ。俺がやってって言ってやる奴じゃない気がするし、どうしよ。。  チョコをぽいっと口を入れると、じゅわーっと甘い蜜が溶けた。なんか熱いなぁ。 「もっかい見てもいい?」 「いいよ」  映像を見返す。  タキシードを着て、キザな宗護。  無表情だけど無駄な動きなど一切無くて、綺麗な所作で弓を引く宗護。  始めて知る恋人の様子に胸がときめく。  凛々しく美しい、俺の番。  あー…ほんっとちょろいな、俺は。 「右手に付けてる、グローブみたいのは?」 「弓懸(ゆがけ)って言うんだよ。指を保護してくれるんだ」 「そんな名前なんですね」 「かけがえのないって言葉があるでしょ。その語源になったのが弓懸だと言う説もあるんだよ」 「へぇ!知らなかったです」  ヨッシーが俺の隣に来ると、にっこり笑いながら教えてくれた。 「他にも弓道由来の言葉は沢山あって、『的を射る』『手の内を明かす』『矢継ぎ早』『である筈』もそうみたいです。矢のお尻部分の凹みを筈と言うんですが、弦に引っ掛けて弓を引く事からだそうです」 「そうなんだ〜知らなかったな。教えてくれてありがと」 「いいえ。それにしても素敵ですね」 「うん。あはは。そうだね。チョコ食べよ」 「はい」  照れ隠しでチョコをヨッシーに渡し、画面の二人を食い入るように見ていたら、宗護がお風呂から上がってきてしまった。  髪についた水滴をタオルで拭う様子すらカッコ良いけど、ゆっくり乾かして来てこいっての。 「あ!何見てるの?酷い、俺が居ないと思って」 「カッコイイ宗護を見ていただけだよ」  嵯峨さんが俺にナイスフォローとばかりに目配せをした。ふへへ。  アイコンタクトに満足していたら、俺の腰に細い腕が急に巻き付いた。ヨッシーだな。 「ん?どうした芳春。眠くなった?」  嵯峨さんが優しく声を掛けると、ヨッシーは「いいえ。。龍之介様が素敵過ぎて…」とうっとり言い、俺の下の短パンに手を入れてきた⁉︎ 「ひゃっ⁉︎」 「龍…好きです」  柔らかくて細い指が、下着の中に手を入れて扱き出した。 「やっ、ん」 「…僕、熱いです」  それ人違いだからー⁉︎  ヨッシー手コキがほんと上手い!  見たら顔は赤いし目はトロンとしていた。酒臭くね⁉︎  焦っているのは俺だけで、宗護は面白がってるし嵯峨さんも慌てる様子も無い! 「あちゃー、酒入りだったか。しまったしまった。俺とした事が」  嵯峨さんがポンとおでこを手を叩いた。  わざとらしー! 「っ、どうでも良いから、んん…あっ、ン、や、止めてっ!」  嵯峨さんと宗護を見たら、また二人してにんまり笑う。 「嵯峨、どうする?」 「他の男なら許さないけど、これはこれで萌えるな」  このバカ二人〜!  敏感な先端を撫でられて、びくっと身体が震えた。柔らかな指で扱かれ、緩く揉みしだかれる。 「っあ!や、止めて、くれないなら…一ヶ月H禁止!嵯峨さんも!」  涙目で宗護を睨むて、嵯峨さんと慌てて引き離してくれた。  身体が熱いし、あそこもジンジンする。  宗護の首に腕を絡めながら、首に顔をぐりぐり押し付ける。 「ばか。アホ。気持ちいい事は宗護とすんの」 「ふふ。そうでした。ごめんね」 「お詫びに明日の朝はパンケーキね」 「はい」 「あと弓道やるとこ見せて」 「はい…って、えぇ⁉︎」 「俺もチョコ食べちゃった♡」 「密、ん…っ」  意地悪を言った唇を、自分の唇で塞ぐ。  宗護の舌と自分の舌を絡めて、綺麗な唇を唾液で濡らす。宗護の耳に口づけをして、小さく囁いた。 「二階に連れてって?」 「ほんとにエロカワちゃんだよね」  チョコがみーんな!悪い!  
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