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4、いってきます
宗護が弓道部に復帰した。
それに伴い、帰りが遅くなった宗護に代わって犬たちの世話や夕飯を引き受ける事にした。
以前からペットシッターさんにもお世話になっているし、全然良いんだけど。
「密、行こう」
矢筒を肩に掛けた宗護が格好良過ぎて、目玉が潰れそう!弓道って全く興味の範囲外だったけど、宗護に似合い過ぎる。
「はぁぁ…スキ」
「もう、毎日見てるよね?」
苦笑いをした宗護にすら、ときめいてしまう。
本当に格好良いんだもん。
「密?」
「ハイハイ。いってきますのチューね。…ん」
これまでは宗護が俺を抱きしめて朝のキスをしていたけれど、矢筒と言う荷物が増えたから、俺が宗護にキスするようになった。
期待に満ちた顔でキス待ちしてて、ちょっと可笑しい。荷物を持つ前にしたら良いんだけどさ。
「…ン…あっ、ベロ入れるの禁止!」
「なんで?上顎舐めるの密、好きでしょ?」
「好きだから勃っちゃうんだろ!」
「そっか。ならお尻で我慢しとく」
「お尻もダメっ」
やわやわとお尻を揉まれ、危うく勃ちそうになる。油断も隙もあったもんじゃない。
セキュリティゲートを閉めて、二人で駅に向かって歩き出す。
復帰戦の初試合は、二カ月後にある黎明天宮杯と具体的な目標も決まった。
駅まで歩く僅かな時間も凄く楽しい。
放課後にデートは出来なくなったけど。
「感覚は取り戻してきたけど、今度は一瞬でも密を思い出すと顔がにやけちゃうから、集中するのって本当に難しいよ」
「あはは。そうなんだ」
「風ノ宮にも弓道部はあったはずだけど、密はやらない?」
「うん。今は宗護を応援する方が楽しいもん」
「そっか。ちょっと残念だな」
宗護は家でも練習をしている。
それがまた格好良いのなんのって!
弦を引く動作だけだけど、いくら観ていても見飽きない。
俺も弓を触らせて貰ったけれど、全然引けないんだ。
初心者は三か月ほど、ただ黙々とゴムを引いて練習をすると聞いて諦めた。
今は自分がやるより、宗護を見ていたい。
それに弓道に限らないけど、スポーツをすると道具の手入れや洗濯など、やる事は沢山ある。
胴着の洗濯の仕方は教わったし、弓道についての本も何冊か買った。
やるわけじゃ無いけど、ルールとかやっぱり知りたいし。おかげで矢が当たるとは、中ると書く事も知った。
「今日の夕飯は生姜焼きの予定だよ。宗護に負けないくらい美味しく作るからね」
「ありがと。密に情けない姿を見せないように頑張るよ」
「勝ち負けはいいんだよ?だって勝つ姿が見たいわけじゃないもん。宗護が弓を引いているのが、見たいだけだから」
「…弓引きやってて良かったな」
「あははは」
だって実際、そうなんだ。
怖いくらい美しい立ち姿で矢を射っていたのが、俺を見つける為の願掛けだったなんて聞いたらさ、ますます本物を見てみたい。
ハロウィンの時のピアノといい、宗護には驚かされっぱなしだ。
「家に戻りたいな」
「だーめ。着いたよ。んじゃ、またねー」
駅に着くと路線が違うから分かれなきゃならなくなる。
俺が通過するのは3駅で、弓道の教本を読むのが最近の日課になっている。ページをめくり目で文章を追う。
足踏みとは
射法八節の第一節、基礎となる最初の足の踏み方を表しています。「射位(しゃい:弓を射る位置)で的に向かって脇正面に立ち、両足を的の中心一直線上に外八文字に踏み開く動作」と説明されています。見た目にはただ足を踏み開くだけの非常に単純な動作ですが、実際には踏み開く幅、足の角度、正しく脇正面に立っているか、などを考えながら行う必要があり、土台であるがゆえに足踏みが正しく行われないと以下の動作の全てが歪んでしまうといわれます。
なお開き方には、片足踏み開きと両足踏み開きの2種類が存在します。
難しい…何回読んでも難しい。
映像で見た宗護の動きが、こんなにも難しいとは思わなかった。
1個目ですら理解が難しいのに、あと7個もあるんだから。
「はぁ…」
名前に道が付くくらいだもん。
剣道や柔道と同じく、果てしない道のりだなぁ。。
※射法八節は以下のサイトを引用しました。
https://www.kyudowiki.com/knowledge-base/glossary/2274/
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