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胡桃が望むように薬草の袋を全部出す。中身も机に並べる。光っているのは薬草の収納袋ではなかった。
「その袋は?」
七色がふわりと漏れ出ているのはナンジャラの若木を干したものと、その種が入れてある袋だった。
「わたしはナンジャラの木と呼んでいて、村長さんは天昇木と言っていた木の若木を干したのと種です。若木は戻して食べられるし、粉にすればお茶として飲めます。種は、わたしが将来住み着くところに蒔くつもりで持ってきました」
そう言いながら袋の中身を出す。
コロリ。
小石のような珠が出てきた。
こんなの一緒に入れていたっけ。
小さな珠を指先で摘まむ。
「……それって、おれが」
九弧が珠を指差す。
ああそうだ。
思い出した。
この珠は九弧が、クサリ草かぶれを治療したお礼に饅頭でも買えと、わたしにくれたものだ。
その珠が七色に光っていたのか?
わたしは光らなくなった珠を、夜空が切り取られて晴れ渡った青空がぽっかりと現れたような、そんな色に染まっている、青く透き通った月の光に翳す。ふんわりと感じていた金色もしなくなっている。
「これが七色に光っていたみたい。もともと九弧がくれたものだから、これは九弧の珠なのだと思う。返すね」
「返すねって、それは違う。おれが持っても七色に光らないからな、絶対」
手のひらにぽんと置かれた珠を見て、九弧があたふたと慌てた。
「だって、これを持っていたらたぶん次王になれるよ」
「じゃあ以知古にやったほうがいい」
九弧が以知古の手のひらに置く。
「他人のものなど、ぼくは要らない」
以知古は九弧に返す。
「それじゃあ杏がもらう?」
「それはダメだな」
九弧が杏に渡そうとした小石を八朔が横から奪った。杏は苦笑する。
「わたしも次王になれるなら、自分の力で手にできたものでなるつもりよ」
他人のお情けは要らない。
きっぱりと拒否した。
「誰が七色の珠の所持者になるにせよ、珠はなぜ光らなくなったのでしょうね」
胡桃がひょいっと口を挟む。
「なぜ、なんだろうな」
八朔が手のひらの上で遊ぶように珠を転がす。そしてひょいっとわたしの手のひらに載せた。わたしは何気なく、珠とナンジャラの干し若木を握り持った。
「光ってるな」
八朔が片頬を引き攣らせた。
「なぜナンジャラに反応するのかな」
わたしは微苦笑して皆を見回す。
皆が、同じように笑ってくれない。
八朔のように顔を強張らせている。
わたしは違うというように首を振る。この珠本来の持ち主は九弧だ。次王の最有力候補は九弧だ。間違ってもわたしなどではない。
だって。厭だ。
「違う! わたしなんかじゃない」
わたしは王になどなりたくない。
ひとりぼっちで生きたくない。
そんな覚悟などできない。
優しい夫と可愛い子ども。街で小さな薬屋を開き、薬師として穏やかな一生を終える。それがわたしの望みであり、目標だ。
「次王になんて絶対ならない!」
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