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みんなの望み
「あきらめなさい花梨。光っているのは干した若木と珠だけではありませんよ。ご自分をよくご覧なさい」
静かな口調で諭すように言う。
「金色の光を放っているのは花梨、あなた自身です」
きっぱりと言い切った。
「だからお願いします。王導路を歩んできたあなたを買わせてください。この国、果の国の次の王として、幸せを運んでください。……あなたは言っていたではありませんか。わたしを売り飛ばしてもいいと。買いましょう。あなたのお父さんに過分な金銭を国庫から出します。それでお兄さんに嫁をもらうように伝えます」
登宮に連れ出された憂いを払う。
それで円満解決できるはずと言う。
胡桃が勝手に解決しようとする。
わたしの願いを度外視して語る。
「胡桃さん、あなたは何者だ?」
以知古が訝しむ。
「わたしと栗木は次王随伴者です。他の団にも随伴者がそれとなく入り込んで、王宮までついて来ていますよ」
有望そうな者を見つけて紛れ込む。
登宮旅の中でひととなりを調べる。
ちなみに栗木は途中で再会した文旦に、椰子からするっと乗り換えて王宮に辿り着いているようだ。
「途中から奇妙な時間感覚に襲われる。そのように聞いていましたが。よもやこれほどまでだとは思いもよりませんでした。しかも最終的には次王自体が光るとは……」
感慨深げに首を振った。
わたしは目を瞬く。
何というバカなことを胡桃に言われている? わたしが光っている?
そんなの人間じゃない。
手のひらが光ることだけでも特異なことなのに、体から光が出るなんてそれはすでに人ではない。
……だけど。気づいていた。
わたしの体が光を放っていると。
周囲を金色に照らしていると。
「花梨。あなたは誰も食べたことがないものを常食していませんでしたか」
胡桃の指摘に冷や水を浴びせかけられた気がした。誰も食べたことがないもの。それはこの若木と種。わたしはナンジャラの赤い実と種が落ちて生えた若木をたくさん食べている。
「あなたがナンジャラと呼んでいる木。その若木は草に似ている。そういうことではないでしょうか」
「望郷草は草ではなく木?」
「若木が草に見えたのでしょう」
「長期間に渡っての望郷草の生態を観察できていない。木として大きく育てて観察しようと志した人が、今まで誰一人としていなかった。だから草だと間違われていた?」
「そういうことでしょうね」
「ぼくたちの村に望郷草があった」
「わたしたち、間近で見ていたのよ」
「次王は大自然が選び出します。あなたはなぜか、ナンジャラの木に惹かれて食べた。そしてあなたが強く光るのは、あなたの血が他の何か、たぶん獣や魚の血で濁っていないからでしょう。最高の次王候補と言えます」
「わたしは王になる覚悟なんてないです。だから以知古に譲りたいです。以知古が厭なら杏に。わたしより文旦のほうが」
「おれはおまえらのおまけか?」
そんなの要らねぇ。
文旦が自分を指差し苦笑した。
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