みんなの望み

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「花梨。腹を括れ。ぼくも杏もすごく悔しい。だけど同じ村から次王が立つことがそれ以上に嬉しい。……杏、八朔、九弧。話がある。胡桃さん、少しぼくたちで話し合います。花梨を説得しますので、少々お時間ください」  以知古が何やら俄然張り切る。  村に関係ない他の者に聞かれたくないと金色を纏うわたしとともに、広場の片隅に皆を寄せた。  開口一番 「花梨。次王の座を受けろ」  以知古が命令口調で言う。 「だけどわたし」 「花梨の望みはわかっている。その上で、このみんなで互いの願いを叶えようではないか、と策略を練りたい」  皆の要望をすり合わせよう。  以知古が目をゆっくりと細めた。 「何よ以知古。ここにきて何、面白そうなこと企もうとしているの?」  小学舎の元学童長と副学童長が額を突き合わせる。策略を立てていく。 「花梨の希望は薬師で幸せな家庭を持つこと。ぼくの本音は国の頂点に立つことではなく国の実務、上級官吏になることだ。杏は国王の座に就くこと。八朔は杏と夫婦になること、だろ?」 「ちょっと待って。それ、何なの?」 「いつの間に気づかれてたのかな」  八朔が肯定して苦笑した。 「八朔、あなたまで何言うのよ」 「八朔は二人になるのを望んでいた」 「なるほど。以知古は侮れないな」  八朔が鷹揚に頷く。 「どうして二人になると夫婦なのよ」 「八朔は杏の親から頼まれていたことがある。そのような気がしていた」  以知古が想像していく。  できれば登宮途中で杏を説得して村に戻る。王都に着いたとしても次王になどなれるものではない。打ちひしがれた杏を慰めつつ村に帰れ。そして杏を嫁にもらってくれ。 「村の外に長く出る。それも男連れでだ。嫁のもらい手なんてなくなる。家付き娘にする。婿として杏と夫婦になって欲しい。……おれ、杏が好きだから願ったり叶ったりの申し出だった。ほいほい二つ返事で承諾したよ」  八朔があっさり白状した。 「だけど杏に手を出してないからな。もしもってことがあると困るもんな」  もしかしたら杏が次王になれる。  光り珠を手にできたとき、八朔は決心した。可能性が爪の先でもあるのなら、杏を応援する。後押しする。 「おれは杏が大切だ。できることなら杏の望みを叶えたい」  八朔は杏が次王の座に即くことをあきらめていなかった。 「誰がどう見ても花梨が次王だわ」 「だけど花梨は厭がっている。だから以知古が互いの願いをすり合わせようと言ったんだ。以知古は本気で花梨が好きだ。惚れてる。だから上級官吏になろうと思っているんだ」 「他人(ひと)のことなど放っておいてください」  以知古が声低く、丁寧に反論した。  えっ。
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