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「花梨は王になどなりたくないと言っている。ぼくが上級官吏を希望しているのと関係ないだろ? 八朔には申し訳ないが、次王は杏だ」
「わたしではなくて花梨が」
杏がとっさに否定しようとする。
「杏、ぼくの案を聞いてくれ」
以知古が杏の言葉を遮る。
「これから聞くことはここだけの話として誰にもしゃべらないでほしい」
真剣な眼差しで見回した。
「花梨は次王の座を受け入れる。ぼくたちは来年の官吏登用試験を受けるために王都に留まる」
以知古はその先を夢想していく。
現在この広場に居るのは登宮を果たした者たち。無条件で来年の官吏登用試験を受けられる。
これからここに居る全員が希望すれば衣食住、すべて国の負担で試験勉強に没頭できる。次王逗留施設は登宮達成者用の宿舎となる。
学習場所は王宮学舎。次王になる花梨も、官吏試験を受けたい以知古と杏と八朔と九弧も、同じ国学の基礎講座を受けることになると予想する。
以知古がわたしを見下ろす。
「花梨は知識が足りなさ過ぎる。難しい言葉を覚えることから始めなくてはならない。ぼくたちは同郷出身の者の責任として、花梨が王の知識を得るために尽力する。協力を惜しんではいけない。同じ内容の学習を受けて教えなくてはならないのだ。そしてぼくたちは花梨の豊富な薬草の知識を無駄にしないように覚えなくてはいけない。そのためには花梨自身が自己の知識が正しいか、王宮薬草園で薬師たちに確かめる必要が生じる。薬草園に足繁く通い、間違いないか、そちらの勉強も怠わらないでもらいたい。ぼくは胡桃さんにそのように願うつもりだ」
言い切って、いい笑顔を見せた。
「以知古」
「質問ですか、八朔」
「ひと言で案を教えてくれ」
ごちゃごちゃ長くてわからん。簡潔に教えろと以知古に文句をつけた。
以知古が肩をすくめた。
「手っ取り早く言えば周囲のみんな、ぼくたち以外の国民全員を騙そう。そういうことかな」
「どでかい話だな」
にやりと八朔が笑う。
「達成できたときは八朔にも納得してもらわなければならないのだけどね」
以知古がほくそ笑んだ。
「まず、ぼくは官吏になる。そして花梨を嫁にする」
以知古の希望はそれで達成する。
「次王になるはずの花梨がぼくの嫁になったら次王の座が空く。だけど大丈夫。次王候補として最後まで残った杏が居る。杏は花梨とともに王となるための学習ができている。次王は女性と発表されている。花梨と杏が入れ替わっても下々の者にはわからない」
杏の望みが達成した。
「わたしが花梨と名乗るの?」
「次王になると決まってから名前を変えればいい。王に相応しくて、杏が名乗りたい名前に変えたらいいんじゃないかな」
「じゃあ、わたしが以知古の嫁になりたくないと言ったらどうするの?」
素朴な疑問を以知古に出す。
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