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「杏が次王として確定するまでは、ぼくを愛している振りをしておくことが必要かな。次王として杏が擁立されればぼくを振って構わない。それから王宮で薬草の研究を始めてもいいし、街に降りて薬師として暮らしてもいいと思う。それが、花梨の望みだから」
真摯な眼差しでわたしを見遣る。
以知古がわたしを静かに想ってくれていることを目が如実に語っていた。
「うん。そうだね」
「八朔と九弧の望みも考えもいろいろあると思うが、今一番大事で解決しなければいけないことだけ優先した。これで胡桃さんと世間を丸め込む。あとは次王が国民の前に立つお披露目までの猶予期間内で修正して行こう」
「バレない?」
「ここに居るみんなが協力すれば」
「わたしはそれでいいわ」
「おれは惚れてる弱味で構わない」
「九弧はどうだろうね」
「もちろんおれも力になるよ。試験は下級を受けることになると思うけど」
「よし。それじゃあ話してくるね」
以知古が良い笑顔を見せた。
その後ろ姿を見ながら、杏に訊く。
「こんな大事な国のこと、勝手に決めていいのかな」
「いいんじゃないの? 大自然が決めた果の国の次の王、花梨が承諾したことだもの」
「杏が果の国の次王になるんだよ?」
違う、というように杏が首を振る。
「わたしが花梨の代わりに玉座に即いたとしても本物の王はたぶん花梨、あなたよ。以知古はあんな案を立てたけど、あなたが国の要から逃れる、外れることなどできないと思う。それは最初に言っておくわね」
その上で杏は身代わりを引き受けてもいい、王として表立ってもいいと微笑む。八朔も杏を支えると言う。
「なんとかなるって」
九弧がわたしに微苦笑した。
だからわたしは九弧に耳打ちする。
「ナンジャラの実、九弧も食べたね」
刹那、九弧の体がギクリと揺れた。
透き通った青月の光の粒が、シャラシャラ音を立てるように広場に降り注いでくる。
淡く青い光を受けて、強い金色の光を放つわたしの隣で九弧がうっすら金色を漂わせている。わたしの光が強くて皆が気づいていないだけだ。
「いざとなったら次王の座を九弧に譲るからね。八朔の恋心をわたしは無視したくないんだ」
そのときはよろしく。
「えっ」
九弧が盛大に驚いた。
だがその直後、真顔となる。
「おれは花梨か杏になってほしい。杏が話していたように、女性が王になって果の国がどう変化していくのか見てみたいんだ、おれ」
逃げるな花梨。
九弧の目線に囚われる。
ああ。逃げられないみたいだ。
ナンジャラの甘い味を思い出す。
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