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次王 その先
だから九弧。
だったら九弧。
「わたしが次王になって王に即いたとき、九弧も連座だからね。副次王で副王になるんだよ」
「そんなのアリかよ。やる気満々の杏はどうすんだ?」
「杏と以知古は宰相。八朔は側近。わたしが王になったら一蓮托生だから。覚えておいて」
「……おれが言い出しっぺだしな。だけどおれの考えが採用されたことなんて一度もないんだからな。なんとなく思いついただけだからな」
「それが大自然の意思だとしたら?」
わたしの口を衝いて言葉が出た。
胡桃が言って杏が言ったその言葉。
ああ。そういうことか。
ふっと腑に落ちる。
ナンジャラの化身のような九弧。
彼の赤い髪が青月の光を浴びる。
「そんな難しいこと、わかんねぇよ」
金色の光を帯びて鮮やかに笑う。
以知古が胡桃を連れてきた。
「ぼくが守るから次王になれ、花梨」
わたしを見下ろす以知古。
そうだね以知古。
ようやくわかった。
誰かに守られる王なんて。
それは本物の王じゃない。
わたしは目も眩むような高山の崖っぷちに生えている草を採取する薬草採り名人の花梨といわれてきた。
足を滑らせないように、不慮の事故に遭わないように。父親は兄とわたしを厳しく鍛錬していた。
ナンジャラの木。天昇木のある場所に、わたしは本当に自分一人で辿り着いていたのだろうか。
もしかして父親は現在の王が登宮した時に自分も挑んで挫折した。次王になり損なっていた。
だから幼い子どもにそれとなく望郷草の在処を教えた。赤い実を食べさせたかもしれない。
わたしはそれを忘れていた。さも自分で見つけ出したと思い込んでいた。
そして父親は。
本当はわたしではなく男の兄に登宮させたかった。けれど兄はその器ではなかった。仕方なくわたしに賭けた。
わたしは次王の座を掴んだ。
聞いた父は本懐を遂げてくれた、嬉しいとそれほど思わない気がする。わたしは兄ではないから。本心では自分の代わりを女のわたしではなく、男の兄に遂げて欲しかったから。女は次王になれないと思い込んでいる。……すべて、わたしの勝手な想像だ。
だから次王から逃れるな。
わたしが奮い立つために。
そう思っておく。
だから以知古に。
皆に笑顔を見せる。
「わたし、次王になるね」
果の次王
了
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