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山奥で薬草採りをするとき、このような突発的出来事など珍しくない。いつものようにひざ丈の少女用前合わせ上着の下に、兄のお下がりの又割れ穿きを着てきた。
だから裾を心配しなくてもいい。
だからせーので度胸試し。
体を大きく揺らす。
ぐんっと宙に舞う。
体が逆さまになる。
両足のくるぶしあたりで山藤の太い蔓を挟めた。蔓をじりじりとふくらはぎに添わせていく。膝裏でしっかりと挟み込む。両手で慎重に蔓を伝い、大木にしがみつく。崩れ落ちそうもない場所にようやくたどり着けた。
大木の根元に腰を下ろす。
生還できた安堵感で頭が回る。
……頭が回っている?
しまった。
焦ってもどうしようもないが焦る。
慌てて、くわえていたヤクダチ草を口から外す。唾を何度も吐き出す。
こんなに早く副作用らしきものが出てくるとは思いもしなかった。
ヤクダチ草の副作用。
何があっただろう。
まずいことになりそうか。
大木に身を寄せてうずくまる。目を閉じ、副作用を思い出そうとした。
買い取ってもらえる薬草のほとんどに毒のような成分がある。副作用が出るので安易に口に入れてはいけない。見慣れぬ野草に気をつけろ。親にいつも言われている。
高価な薬草は微量でもめまい、幻覚が起こる。大量摂取した場合、昏倒する。そのまま息が止まることもある。
取り扱いが難しい薬草は、怖い。
大人たちが繰り返し脅していた。
ヤクダチ草は大病の治療に利用されていると聞いた。だが年齢と体格差に合わせた使用方法、使ってもいい分量。そもそも効果的な煎じ方すら、わたしはまったく知らない。
わたしの望みは採取した薬草の効果的な使い方を知ることだ。薬草を採取しながら使用方法を覚えて、近くの街の薬師になってみたいと考えていた。
カーン。カーン。
遠く小さく、鐘の音が響いてきた。
村の半鐘が鳴っている。
火事か。事故か。手伝いが要る?
救いの手が多く要るなら、この山奥からでも駆けつけなくてはいけない。わたしは立ち上がろうとした。だがまだ足元がふらつき、覚束ない。これでは走って帰れない。
ヤクダチ草を籠に入れ、ゆるりと立ち上がる。山奥の、それも頂上付近。半鐘を聞きつけ向かったところで間に合わない気がする。
村の手伝いはまたすればいい。
だから今は肉ごろごろ汁を思う。
村に着いたとき、心配はする。それからできることがあれば手伝う。それくらいの気配りはできるようになっていた。
わたしって大人になったね。
誰かに自慢したいくらいだ。
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