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けれど、山でどのような薬草を採っていたかなどは訊かれたくない。わたしの住む村に月に一度やって来る行商の中年女性に、いつものように薬草を売るつもりでいる。
誰も知らぬ間に金を貯めて街に出て行く。そのような計画も立てられるようになってきた。そろそろ独り立ちできそうな気がしていた。
もっとも薬草が売れても金銭ではなく、糸や針、ハサミという自分では作れない生活必需品と食料などを物物交換する場合がほとんどだ。
わたしは薬草を肉や干し魚と交換することが多い。金銭に換えなくてはいつまで経ってもこの村から出ていけないとわかってはいるが今のところ、食欲に負けていた。
わたしが住む村。
国の最北に位置している。
天高く、そびえる山々に三方が囲まれている。唯一、高い山が前方に見えない南の遥か彼方に、華麗な王都があると父に聞いた。
この村の土に還る前に一度、この目で王都を見てみたい。
祖母は南のほうを見遣っては、わたしに憧憬の念を吐露していた。
その祖母はついこの間、願いを叶えられぬまま、眼を永遠に閉じた。村の土となった。山と村の境にある共同墓地。祖母はそこで眠っている。
わたしがもしも王都に行くことができたなら、祖母に王都の土産を持ち帰ろう。祖母の土盛りの前で手を合わせた。
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