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村の集会所
日が暮れかかった頃、わたしはようやく村外れの田畑まで戻ってきた。
半鐘が鳴った出来事はすでに片が付いたようで、村人たちは畑でクワを振り、種まき前の畝作りをしていた。
薬草入りの籠を背負い歩いていると種イモを植えていた柚子が、山帰りのわたしを見つけた。
「山奥からの帰りみたいね。だったらまだ聞いてないでしょ」
手を休めて話しかけてきた。
「何かあったの?」
柚子と同い年のわたしが聞いておかなくてはならない重要な何かが起きたのか。柚子に話の先を促す。
「次王の選定が始まるんだって。その話を今夜、集会所でするから、みんな集まれってことらしいよ」
「今年あると聞いてはいたけど。ついに宣命が出たんだ」
「それがね。出たのが三ヶ月も前らしくて。うちの村、出遅れ感が半端ないみたい」
「三ヶ月……八十日ほど遅れただけでもまずいの?」
「だって手ぶらじゃ王都に行けないんだよ。いろんなものを探し集めて持って行かなきゃならないらしいし。……花梨、そういうこと知らないんだ」
「うちはあまり次王の話はしないんだ。わたしも王様になる気ないしさ」
「わたしもないけどね。でも全国民平等に権利があると思うと、ちょっと面白いと思わない?」
「どうだろね」
「村長の話を聞くだけ聞いてみようよ。だってそうそうないことだから、隣同士で座って聞こうね。約束したからね」
柚子が勝手に集会所行きを決める。
そうそうないことだから。
のちのちの話題として知っておいたほうがいい。勧める柚子に、次王説明会に参加することを、わたしは唯々諾々と頷いた。
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