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わたしが家に着くと、隣村に嫁いだ二番目の姉が子ども二人とのんびり手遊びをしていた。
次女である枇杷は嫁ぎ先の親と性格が合わないらしくて、小学舎に入っていない下の子二人だけを連れて、たびたび帰ってくる。そのたびにわたしの部屋を我が物顔で占拠する。
四番目の姉が嫁いでようやく一人で独占できる部屋になったと喜んだのも束の間。子連れの枇杷が襲来してくるようになり、かえって手狭な部屋と化していた。
枇杷はわたしの顔を見るやいなや、
「次王の話を聞きに行くのでしょ」
と早めの夕食を用意し始めた。
「結婚前ならわたしも次王の登宮に参加できたのに」
枇杷が本気で悔しがった。そうして
「花梨は、自分の思うがままに生きなさいね」
突然、真顔で囁いてきた。
「なぜ?」
枇杷に合わせてそっと訊く。
「父さんがあなたの嫁入り先を選び始めたようなの」
十五歳の成人を迎えたすぐあとに、わたしを嫁に出すつもりでいるらしいと教えてくれた。
「冗談じゃない」
「そうよ。冗談なんかじゃないわ。だからこそ、今夜の話を自分の将来に結び付けて聞いたほうがいいと思うの。木通のために花梨が犠牲になることはないのよ」
「わたしがお兄ちゃんの犠牲。……それってどういうことなの?」
「花梨の嫁入り先からもらえる支度金を木通の嫁取り金に流用する気よ」
我が家では姉四人分の嫁入り支度金で鶏小屋を作ったり、畑を少し増やしたりしている。ちなみに枇杷の支度金で雨漏りしていた母屋の屋根を修繕した。
木通はわたしより五歳上で、そろそろ嫁をもらわなくては家の体裁が悪いと親たちが話していた。
だからといってそれが妹の犠牲の上で成り立つ話であるなら、憤慨しかない。肉ごろごろ汁など家族に奢っている場合ではない。自立できそうな資金をあと半年足らずで貯めなければいけなくなった。
「枇杷姉ちゃん、わたし、十五になったばかりで結婚なんてしたくないよ」
いつかは結婚したい。
だが十五歳ではいかにも早すぎる。
姉たちのように十六、七での結婚でも早いと思っていた。成人直後の結婚など、考えたくもない。結婚も子どもを産むのも二十歳すぎでいいと思っていたくらいだ。
そうなのだ。姉たちはそれぞれの同い年の中で一番二番という早い結婚をしていた。女女女女男女と、女が五人居たからなのか、姉たちは成人とともに婚約して結婚した。
娘が多く居るからといって、家から追い出すように、そんなに早く結婚させなくてもいいではないか。
と、今なら意見が言える。
姉たちが結婚して家を出ていったとき、わたしは子どもすぎた。姉たちの花嫁衣装が綺麗だったという思い出しかない。まさか我が身に同じように降りかかってこようとは、考えも及ばなかった。
だから
「枇杷姉ちゃん、しっかり話を聞いてくるよ」
「聞き漏らさないようにね」
枇杷がわたしの背中をぽんぽんと励ますように叩いた。
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