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村の集会所は、立て膝座りすると立錐の余地がないほど、ぎゅんぎゅん詰めになっていた。
小学舎卒業以来、久しぶりに顔を合わせたらしい各学年の同窓生たちが輪になって近況を伝え合い、空気が沸き立っていた。
「ねえ見て、オジサンも居るよ」
柚子が不躾に指差す方向に、隣家の男性が座っていた。
「老けて見えるけど、うちのお兄ちゃんより二つ年上なだけだよ。……お兄ちゃんが、今年二十歳になるからおれは集会所には行かない、と言ったの。参加資格に引っかかるのかと思ってたけど、違うみたいだね」
わたしは声をひそめて、彼が見かけほど年配者ではないと否定する。二十歳すぎでも参加資格があるのかと首を傾げた。
わたしが疑問を口にすると柚子がすかさず返してきた。
「あの人が引っかからないとしたら、結婚する気がないってことだと思う」
「結婚するのと次王と関係あるの?」
「花梨は本当に何も知らないんだね」
詳しくはこれから村長が教えてくれる。柚子はそう言って笑う。
なにしろ三十五年ぶりの行事だ。親世代も含めて知らない者たちが数多いる。
今宵の村長の話は、国の民に広く平等に次の王となる権利が与えられている、ということを参加資格のある若者たちに伝えたいということらしい。
次王選出の意義。登宮に参加したことに対する恩恵があることなど。
若い頃に宣命がなくて何も知らない三十五年間の狭間世代を親に持つ子どもと、政にそれほど関心がない家庭の若者に対する説明会でもある。
「だから二十歳すぎは場違いじゃない?」
柚子が辛辣な目線で、村長の次に年上と思われる隣家の彼をそっと嗤う。
二十歳すぎはどうして嗤われるか。
わたしが訊こうとしたとき。
カンッと小鐘が一つ鳴った。
村長が集う若者たちを見渡した。
「皆、口を閉じなさい」
ざわめきが収まっていく。
「我が果の国の王は今年、齢五十となる。ゆえに今年は次王選出を行う年である」
何も知らないわたしは、現王よりかなり年配者の村長の話に耳を傾けることにした。
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