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果の王は、三十歳で玉座に即く。
五十歳となる年に次の王を選ぶ。
現王は次王が三十歳になるまでに国政のありとあらゆることを教え育てていく。
次王が三十歳となる年。
現王は玉座を降りる。次王に譲る。
次王だった者は現王となり政をする。王だった者は退いたのち前王となり、隠居生活に入る。これが果の国のしきたりである。
国王がしきたりを遵守することで秩序が保たれ、国に安寧をもたらすと言われていた。
今年、現王は五十歳となる。
従って次王選出の宣命が下された。
さて。
村長が区切りを付け、背筋を伸ばす。集う者たちを見渡す。
「どのような者が次王に選ばれやすいか。今の話でわかったかな」
村長の問いかけに、わたしを含む少女少年たちは互いの顔を見つめ合う。肘で突き合うだけで誰も答えようとしない。
夕刻まで農作業をしていた疲れで居眠りしている者もいるし、小学舎に通っている年頃の者たちは宿題をこそこそ教え合っている。
「わかった?」柚子に訊く。
「わからん」柚子が首を振る。
近くにいた同い年の蓮も同意する。
誰からも回答が来ないことに村長が焦れたようで、自分の孫を指名した。
「以知古、おまえはわかるね。小さな子どもたちに教えてあげなさい」
村長の跡取り息子の三男坊である以知古がしぶしぶ立ち上がる。相変わらず痩せている。
「王に即くのは三十歳。王様として次の王を選ばなければいけないのが五十歳となる年。王様として確実に在位できるのは二十年間。……公式を作るとこうなるな」
二十年間+(三十歳-次王確定者の年齢)=王としての在位年数
賢さあふれる切れ長の目と形の整った鼻とくちびるを持つ以知古が、茶色の長い前髪をうるさそうに掻き上げておもむろに答えた。
以知古はわたしたちの二学年上で、十六歳になったばかりだ。のんびりした成長らしく、同じ学年の者と比べて背が低い。低いといってもわたしよりはかなり高い。
わたしの身長は蓮や柚子よりずっと低い。だからやはり以知古は成人男性としては未だ成長真っ只中で、これから大きくなるのだとわたしは思って見ていた。
というのも昨日、山で以知古と出会していた。山菜採りに来ていて背が足らずに手と足の置き場に届かず、反り返る崖に登りそびれて悔しそうにしていたからだ。
だから身の軽いわたしが以知古に代わって崖の中腹まで登り、採ってあげた。もちろん採取料としてしっかり半分もらった。無理やり搾取したわけではない。
以知古は体が華奢に見えても骨が太く、体重が見た目よりも重いのだ。だから手足が胴体を支えきれないのだ。
以知古はそのうち偉丈夫となる。
わたしは彼の未来を想像してみた。
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