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現在の以知古は一見、頼りなさそうに見えている。けれど小学舎に通っていたとき二学年上の以知古は学童長に就いていた。村長が自慢たっぷりに指名するくらい、孫息子は賢い。
「つまり、玉座から早く降りたければ三十歳に近い者を次王に選べばいい。少しでも長く玉座に留まりたければ、生まれたての赤ちゃんを次王の座に据えればいい。……そういうことだ」
「赤ちゃんが次王になんてなれるのかな?」
以知古と同い年の八朔が声を立て、鼻で嗤う。
「だけど国の決まりには沿っている。王になれる年が三十歳となっているだけで、次王は何歳から何歳の間でなければいけない、なんて決まりはないんだよ」
「そうなの?」
八朔の後ろに座っていた、薄茶色の長い髪と碧色の瞳を持つ女性が声を上げた。
わたしは彼女を知っている。以知古の補佐として、学童会の運営に携わっていた杏だ。学童会補佐当時は美少女だった。育つとこんなにも綺麗な女性になるのかと眺めていた。
「そうなっているんだよ、杏。決まってないんだ、一応はね」
「一応って?」
後ろの方から変声期前の声が問う。
以知古が少年の質問に応ずる。
「過去の事例として、五十歳直前の王様が重篤な病を得た話がある。国の平静を保つために現王の側近が次の王として即位した、と記載されている。その高官は三十歳を過ぎていたらしいんだ」
極めて特殊な例として、三十過ぎての即位もある。けれどそれは、百人以上存在する果の国の王の中でも片手に余る即位経緯のようだ。在位中の王の死はあってはならないことで。だからこそ重責を担う王を受け継ぐ次王は、強靱な肉体と精神力を求められるのだ。
以知古がそのように言い切った。
「親が頑丈だったら赤ちゃんでも良さそうじゃない? あたしは王様なんかになりたくないけど、あたしんちみんな健康だし。あたしの末の弟を家族総出で次王に奉りあげられれば。じいちゃんばあちゃんと父さん母さんとあたしら兄弟みんなで王都に行って、王族になれるんだよね」
今度は前の方で浮き立つ声がする。
一挙にざわめきが湧き起こる。
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