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薬草採りの花梨
ヴオオオオオ……… ヴオオオ……
遥か下方の谷底で風が吹き荒ぶ。
獣のような声を立て凄風が吹き上がってくる。わたし目掛けて襲いくる。
山奥。頂上付近の崖っぷち。
目が眩むほど深く遠い激流にわたしは目を眇める。谷底から吹き上がる強風が身を切るように冷たい。指先が凍え痺れる。血が流れるような痛さだ。
あと少し。
もうちょっとで薬草に指先が届く。
踏み出した足下がわずかに揺れる。
轟々と荒ぶる音を立て流れゆく雪解け水にパラパラと落ちてゆく土塊を、わたしは目の端で追う。
狙っているヤクダチ草は崖の先端に生えている。あのヤクダチ草が採れれば高値で売り飛ばせる。
売れたら久しぶりの肉料理だ。肉がごろごろ入っている熱々汁。待っていろよ。
肉の匂いと濃厚な味を想像する。
わたしももうすぐ肉を食べられる。
その期待だけで腹がくうっと鳴る。
食べられると思えば目も眩むほどに遠い谷底も怖くない。髪の毛先をピシピシと頬に強く打ちつけてくる風も我慢できる。
崖っぷちにせり出すように生えている大木に、絡む藤の木蔓を握る左手。体を支え直すために左手をぐっと握り直す。そして右手を精一杯伸ばす。
戦慄するような怖さはないけれど、やはり谷底は見たくない。無意識に目が細くなっていく。
視界を狭めては危険だ。
しっかり目を開けて薬草を見ろ!
崖端への足の踏み出し方を見極めないと谷底に真っ逆さまだぞ。
花梨、気を抜くな!
わたしは自分に叱咤した。
自分を奮い立せるその足下。
土が脆い。今しも崩れ落ちそうだ。
わたしはあと半年ほどで花の十五歳。果の国の法で成人と認められる。
もうすぐ大人の仲間になるというのに同年齢の者と比べると背が低く、生育途中の幼い子のようだと皆が揶揄する。
細身の体躯も、背中で無造作に一つに束ね垂らしている青みがかった房が混じる薄黄色の長い髪も。小鳥のような身軽さすべてが幼さに結びつけられている。
わたしくらいの年頃ともなれば、少女っぽさから脱却して、年相応の乙女の顔付き体付きとなる。
なるはずなのに末っ子のせいか、幼な子のように大きな、黒目がちの瞳のせいか。不当な子ども扱いを受けていた。
わたしはもはや子どもではない。
このような危険なこともできる。
それを証明したくて険しい山に分け入り、薬草採りに励んでいた。
そこで見つけた極上品。大人に知られて横取りされる前に是が非でも我が手中に収めたいと思うのは人情だ。
早春の冷たい谷風に耐えて、足下がぼろぼろと谷底に崩れ落ちていくのも厭わずに、手を思いきり差し伸ばして採取を試みていた。
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