清ら松風、月影に謡う 【弐】

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 日輪が沈む。 「松風に——」  秋が深まるにつれ、夜の訪れは早い。明るい話題が尽きない珠子との会話を楽しんでいたら、あっという間に()(かれ)時の到来となった。 「松風に 色をかざりし もみぢ葉の 心あらずも しのぶ夕星(ゆふづつ)」  冷たさを増した風に吹かれて見上げる宵の空には、白く輝く夕星(ゆふづつ)が薄藍に染まった雲を照らしている。なんて美しいのかしら。鮮やかで眩しくて、まるで光成お兄様のよう。 「そういえば、夕星(ゆふづつ)には別の呼び名があるのだと真守(まもり)様が教えてくださったわ。えーと、確か……あ、そうそう、『太白(たいはく)』。太白だわ」   夕星(ゆふづつ)は、陰陽道で万物の基礎を成す木火土金水(もくかどこんすい)のうち、金の星として五星の一つに数えられているのだと、先日お教えくださった。興味深い内容だったから、他の四星についてもお聞きしたかったのだけれど。 「うずら丸が、新しく覚えたという妖術をいきなり披露し始めて、お話が中断してしまったのよね」  しかも、その新術が不完全だったせいで、突如として空から降ってきた大量の雪に賀茂(かも)様のお邸が潰されかけた。唯一の救いは、雪の被害に遭ったのは賀茂家だけだったこと。   「うずらまる、ゆきのはんいのちょうせつ、だけは、きをつけた。がんばった。あつこと、ゆきむろで、あそびたかったから」    どうやら、雪祠(ゆきむろ)という、雪の小屋を私のために作りたかったがための新術披露だったらしい。  妖猫の頭領、白焔(びゃくえん)様に『時空間妖術』を教わり、北国の雪山から賀茂様のお邸に山頂の雪をごっそりと移動させたのだと。  ただ、大陸から我が国へと飛来してきたうずら丸に、雪祠(ゆきむろ)という存在の知識は無かった。  賀茂家の当主、護生(もりお)様からの追求で、真守様がお叱りを受けた。『時空間妖術を使うなら、大玉の雪くらい瞬時に運べなくてどうする』と、うずら丸を焚きつけたことが露見して。   「まもり、なかで、いもをやけるくらい、おおきなゆきむろにしろって、いった。あつこが、いも、すきだから、がんばれって。だから、うずらまる、はりきった」  
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