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「あら? 私が一番遅かったかしら。皆様、お待たせしまして申し訳ありません」
「たっ、たま……撫子っ? あなた、他家の男性の前で面を晒してるわよ!」
遅れて場に現れ、にこにこと呑気に笑って箏の琴の前に座した姫。珠子の姿に、息が止まるほど驚いて叫んだ。
楽器が置かれている場所には御簾も几帳も無く、そこに居る姫君の美貌を人目から守る物は何も無い。
武弥はともかく(二回め)、身内ではない男性に、大納言家の姫君がその顔を迂闊に晒していいはずがない。
「大丈夫。篤子、大丈夫だ」
それなのに、そういうことに最も敏感にならねばならないお兄様が、どうして、珠子の顔を隠すべく傍に駆け寄ろうとする私を引きとめるの?
「お兄様! 手をお離しくだ……」
「うずら丸だ」
「えっ?」
私を引きとめる光成お兄様の手を剥がしていた途中、耳元にお友だちの名が囁かれ、抵抗が止まる。
「うずら丸の妖術なのだ。だから心配は要らぬ。建殿と明親は、妖術の力でこの邸に運ばれてきた。宴で管弦の調べを披露するために」
「よう、じゅつ?」
続いて告げられた説明の内容が、よくわからない。早口の小声だったからじゃない。ちゃんと聞き取れていた。けれど——。
「どうして? うずら丸が、どうしてそんなことをするの? お兄様がそのことをご存知なのも、どうして? それに、源建様の御主従が我が邸においでになられた経緯が妖術だとして、お兄様が心配無用とおっしゃる理由がわかりません。どうして?」
うずら丸の妖術だから納得しろと言われても、疑問は止まらない。
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