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「さて、では宴を始めよう。長く待たせてしまったから撫子が口を尖らせているし、建殿は居眠りを始めてしまわれた。夢の中でも微睡むことができるとは、器用で残念なお方だ。ふふっ」
やっぱり夢みたい。私の肩を抱いて祝膳の前まで誘導しつつ、ふわっと柔い笑みを見せてくださる光成お兄様なんて、現実でお見かけしたことないもの。
「建殿! 起きてください! まだ宵の口ですよ! 何をどうしたら、よその邸でよだれを垂らして居眠りできるのでしょう。ほら、早く目を覚ましてください!」
——ぱちんっ!
「痛い! 光成、両手で頬をぶっ叩いたら痛い!」
「人聞きの悪い。優しく、覚醒の刺激を与えただけです。けれど、これで痛いとおっしゃるなら仕方がありません。特別に頬を撫でて差し上げますから起きてください。特別の特別、ですからねっ!」
「痛い、痛い! 撫でるなら、もっと優しく! ぐりぐりと握り拳をめり込ませてくるのは、撫でるとは言わんのだぁ!」
「ふふふっ。ちゃんと優しく撫でていますよ。右の頬だけは、ね。左の頬は……まぁ、眠気覚ましのご愛嬌という、あれ、です」
「『ご愛嬌のあれ』って、何だ。確かに右頬だけは優しく撫でてもらえてるが! 光成の手のひらのすべすべ感が私の肌に触れて、たいそう至福だが! 如何せん、左頬にめり込んでくる拳が巌のように殺傷能力に溢れているぞ!」
「知りませーん」
「光成ぃ、っ!」
「あははっ!」
……前言撤回。とても楽しそうに笑って、生き生きとなさっているお兄様も初めて見たわ。
幼い頃、珠子と三人で遊んだ記憶はあるけれど、お兄様は微笑んでいてもどこか醒めていらしたから。
やはり、同性を相手にしたほうが気が楽なのかしら。いいえ、私では駄目だったのかもしれない。
私では、お兄様が心を許せる存在にはなれなかったのか……それとも――。
「それとも、源建様だけが特別、なのか……」
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