清ら松風、月影に謡う 【弐】

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「篤子ー。私の(そう)の調べ、ちゃんと聴いていてねっ」 「えぇ、もちろん」  楽奏が始まった。  私は、奏者の皆様が居並ぶ横で、祝膳を前にひとりで座っている。  珠子(いわ)く、私のための宴だから、私は楽奏には加わってはいけないらしい。残念だわ。だって、とても珍しい楽奏なのに。  (そう)の琴を、珠子と光成お兄様が。琵琶は礼都女(あやつめ)。笛は明親。源建様はお歌を担当。それから——。 「何かしら。あの赤い琵琶は。音色は琵琶とは似ても似つかないけれど」  武弥が弾いている楽器は、躑躅(つつじ)のように真っ赤な色が施された、びいんっと振動を響かせる、不思議なものだった。  武弥自身も初めて手にすると言っていたけれど、これもうずら丸が妖術で演奏できるようにしているらしい。遠い未来(さき)の世から、今宵のために運んだのだと。  「『えれきぎたー』という名称なのだと光成お兄様が教えてくださったけれど、本当に不思議な音色よねぇ」  きっと、もう二度と体験できない貴重な楽奏のはずなのよ。ああぁ、私も和琴で参加したかったわっ。 イラスト:奈倉まゆみ様 6da44d3b-89cd-42a4-937a-63c669ac5e7c
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