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風が、色を運ぶ。
はらはら、ほろほろ。密やかに、軽やかに。
楓の赤、萩の白、菊の紫、銀杏の黄金。さまざまな色が、我が物顔で空を舞い踊っている。
「今日は、随分と風が強いわね。そのおかげで、色葉の美しい競演を眺めていられるのだけれど」
独りごちながら見やった手前の松の木に、ふっと口元が緩む。独り言の合間にも、松葉の常緑は鮮やかに粧われていた。数多くの色葉たちによって。
「秋の風は、いたずら好きなのね」
季節がどのように移り変わろうと常緑を失わない松葉に、まるで彩りを与えるかのごとく、風にひらめく葉が色を置いている。
「いたずら好きで、少しお節介だわ。松葉は、そのままで充分に美しいのに」
「あら、篤子。いかにも秋の風情を語っているように見えるけれど、実は、その『松葉』というのはお兄様のことではなくて?」
「……っ、珠子? まぁ、驚いた。いつの間に来ていたの?」
突然の訪を受け、心の底から驚愕した。けれど、その驚きはすぐに笑顔に変わる。笑みの大部分は苦笑だけれど。
私を驚かせたことで嬉しそうに笑っている相手は、大津大納言家の大君。光成お兄様の妹、珠子だった。
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