清ら松風、月影に謡う 【弐】

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 ——大いに焦った私の心配は、杞憂に終わった。  屋根の上での待機で暇を持て余した白焔様が妖術で楽奏の()を中継しておられたらしく、ついでに私とうずら丸の会話も全て屋根上に筒抜けだったらしい。  宴が終わって、二月(ふたつき)。月が二回、巡ったけれど、うずら丸との面会のために賀茂邸に赴いても、真守様とはお会いしていない。  何かと理由をつけて真守様が私を避けておられるから、なのだけれど。私もなんとなく気まずくて、ずるずると今に至ってしまった。  でも、このままで良いわけはないわ。なぜなら——。 「『信頼枠』の、どこがいけないの?」   誰よりも信頼していて、尚且つ、『藤原光成・熱烈心酔隊』の同志として、これ以上ないくらい話が合う相手なのよ。 「信頼枠と同志枠。両方を満たしてる上に、気も合うお仲間。どうして、それだけじゃ駄目なの?」 「いいと、おもう。まえに、びゃくえんさまが、いってた。こいと、ゆうじょうは、べつものだって」  「そうよね。それに、真守様ご自身もおっしゃってたのよ。『これほど話が合う女人(にょにん)近江(おうみ)様が初めてです。これからも光成様の話題で楽しい時間を過ごしたいです』って。それなのに、もう二月(ふたつき)もほったらかしって、どういうこと? いい加減、お兄様の素晴らしさについて語りたいのよ。真守様と、きゃーきゃー言って盛り上がりたいのよ!」   このままじゃ、『藤原光成・熱烈心酔隊』は解散の危機だわ。 「じゃあ、まもりを、おいかければいい。うずらまる、あいつに、はなぢ、ふかせたこと、はんせいしてたけど。ささいな、ごかいで、いつまでも、にげてるやつは、よわむしだ。きょうりょくするぞ」 「その通り。弱虫云々については弁護するけど。それよりも! 貴重な同志をこんな些細な行き違いで失えないのよ。私、絶対に真守様を振り向かせる!」  見てらっしゃい。私と顔を合わせないように逃げているなら、追いかけてやるんだから。  それで、色恋抜きで誰よりも気が合う親友(おともだち)は私なのだと再認識させてあげるのよ。 「ねぇ、ちょっと口を挟んでもいいかしら。陰陽小僧が篤子ちゃんから逃げてるのは、とっても繊細な男心が関係してると思うんだけどぉ。それを〝些細な誤解〟扱いするのは、さすがに気の毒じゃない?」 「うずら丸。私、まずは(ふみ)を書くわ。たくさんたくさん書くわ。親友(おともだち)への友情を強く訴えた、熱烈渾身のお手紙を!」 「うん、たくさん、かけ。うずらまるが、まもりの、くちに、ねじこんでやろう」 「あらっ? アタシの助言、全然聞こえてない? ま、まぁ、いいか。陰陽小僧、頑張れー。アタシ、遠くから応援してるー(棒読み)」 【了】
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