16人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
だから、私と気が合うし、私も珠子には何でも素直に話せる。
「ふふっ。ありがとう、珠子。優しい言葉、嬉しい。でもね、大丈夫。私、もう大丈夫なの」
「えっ?」
まだ形にはなってない。輪郭しか、掴めてない。
けれど、珠子には言いたい。今、伝えたいと思ったから、声を紡ぐ。
「光成お兄様のことは、とても好き。今も毎日、大好きって思う。だけどね、その『好き』と同じくらいの気持ちを抱ける人がね、他にも現れたの」
「え……」
「あ、まだ確証はないのよ。自分でもその辺りはふわふわしていて、ちゃんとした形を成していないってわかってる」
そう、確証はない。ずっと、誰にも目もくれず。一途に想い続けてきた光成お兄様への気持ちと同じものなのか。わからない。掴めていない。自分のことなのに。
「でもね、大事なの。とても大事で、その人と居ると心がぽかぽかと温まるの」
それでも、温かな『好き』が胸の内を占めてくる相手だということは自覚してる。
「あの、だけどね? こんな、あやふやな感情のことを唐突に聞かされても珠子は困るわよね」
困るどころか、嫌かもしれない。私の不毛な片恋をずっと応援してきてくれた珠子なのに、裏切られたと思ったかもしれない。
「でも、困っても怒ってもいいから、珠子には一番に伝えておきたかった。だから、許してほし……」
「まぁ、篤子! 良かった! やっと新しい道に進めたのね!」
あ……。
「良かった。良かったわね。私、嬉しい。正直、お兄様以上の人は存在しないけど! 誰よりもお兄様が輝いてるけど! でも篤子が踏み出した一歩のことはとても嬉しいわ。私に一番に告げてくれてありがとう」
「珠子……ううん。私こそ、ありがとうだわ」
珠子なら喜んでくれるはずと思っていたけれど、光成お兄様への裏切りと受け取られたらと怯えてもいたから、目を潤ませて「良かった」と繰り返してくれたことに私が涙ぐんでしまう。
私こそ、あなたが友だちで良かった。
最初のコメントを投稿しよう!