清ら松風、月影に謡う 【壱】

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「ところで! そのお相手は、どなたなの? ここまで話したんだから、是非、教えてっ。宮中で知り合ったお方かしら?」 「あ、えーと……宮中、になるのかしら。厳密には違うけれども」 「あら? 今のお返事で、私、わかっちゃったかもー」 「え? 何がわかったの?」 「はいはーい。もう納得できたから、この会話は終了でいいでーす! 私、お兄様から伺ってるのよ。『お』で始まる職業の少年と篤子が密会を重ねてることー。お兄様は少年の飼い猫に会いに行ってるとおっしゃってたけど、そんなわけはないもの。やっぱり私の睨んだ通りだったのねっ」 「珠子? 『お兄様から伺ってる』の後、なんて言ったの? 扇で口元を隠したら聞こえないわ」 目元がすごくにやにやしてたから、気になる。 「あ、そうだわ。そんなことより、今夜の予定を教えてくれる? あなた、今夜はまだ、こちらのお邸で過ごすのかしら」 「〝そんなこと〟って……」  珠子の会話の展開についていけない。  私の心に新たに住みつき始めた相手は誰なのか教えてと()うておいて、ろくなやり取りもせずに会話を終了。私のあやふやな回答で、何が納得できたのか。  しかも、緊張しながらも珠子が相手だから真摯に答えようとしてた内容を『そんなこと』呼ばわりされたわ。  どういうこと? 私のほうは何も納得できてないわよ。
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