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ボトルメッセージ 瀬々川卯真
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴る。
「はい、では帰りましょう。みなさん、もう冬なのでちゃんと暖かい格好をして帰るように! さようなら」
先生のあいさつの後に続き、生徒が一斉に散っていく。
仲のいい友人とおしゃべりをしたり、クラブ活動や委員会に行ったり、ゆっくり帰りの準備をしたり。
そんな中、誰よりも早く準備を終えてランドセルを掴み、教室から走り出た生徒がいた。
「今日も楓(かえで)ちゃん、帰るの一番早いね」
「いつも一人だし、やっぱりちょっと変わってるよね」
楓が帰ったあとの教室ではクラスメートの女の子たちがヒソヒソと話していた。
「そういえば、あの噂は本当なのかなぁ」
「あの噂って?」
「あれ、知らないの? 楓ちゃんって……」
バンッ! とすごい音が会話を遮った。
話していた女の子たちは驚き、音のした方を見ると一人の少女が椅子から立ちあがって、厳しい表情でこちらを見ていた。
「さ、早苗(さなえ)ちゃん?」
噂話をしていた女の子の一人が訝しげに声をかけた。
早苗と呼ばれた少女は、はっと気が付き
「わ、私、もう帰ろーっと!」
あんなにすごい音を出したとは思えないくらい可愛らしい笑顔でにぱっと笑いかけた。
「う、うん、バイバイ……?」
クラスメートの女の子たちはどうして早苗が急に大きな音を出したのか分からず戸惑っていたが、早苗は気にせず教室を出た。
「早苗ちゃん、なんであんな顔してたんだろう……」
「いつもニコニコしてかわいくて、優しくて、あんな顔してるところ初めて見たね」
「どうしたんだろう……」
謎は解決しないまま、女の子たちは帰路についた。
***
楓は小学校から走って家に帰ってきた。
「ただいま!」
はあはあ、と弾む息を整えながらリビングにいるであろう母親に声をかけ、玄関にランドセルを置いた。
「おかえりなさい」
母親はそう言いながら、玄関まで出迎えに来てくれた。
「じゃあ、遊びに行ってくるね」
呼吸がある程度整ってきた楓はまたすぐに出ていこうとする。
「ちょっと待って!」
母親はすでに玄関からは半分体が出ている楓を引き留めた。
「もう、何? 早く行きたいんだけど」
早く遊びに行きたい楓は少しイライラしながら答えた。
「もう冬なんだから、もっと暖かい恰好で出かけなさい」
楓は暖かいコートに手袋、マフラー、ブーツとかなり着込んでいた。
「結構、防寒してるけど……」
「まだ足りないわ!」
母親はそう言い、楓の頭にニット帽をかぶせた。
「これでよし! いっておいで」
楓はニッと笑って
「ありがと! 行ってきます!」
と言いながら遊びに行った。
住宅街がある道と反対の道を駆けていく楓の姿を眺めながら半分呆れたように
「まったく、またあそこに行くのね……」
とつぶやいた。
***
楓は母親からもらったニット帽をかぶり完璧な防寒で走っていた。
「はあ、はあ……!」
息が上がり、段々と暑くなってきた。
マフラーと手袋を取り、再び目的地へ向かって走り出した。
「はあ、はあ……、着いたあ!」
しばらく走り続けると、目的地に着いた。
目の前に広がるのは、ただただ広く深く青い海だった。
楓はキョロキョロと周りを見渡して、誰もいないのを確認すると
「よしっ」
と小さくつぶやき、ザクザクと砂浜を歩き始めた。
しばらく歩いていくと、岩場があった。
楓はゴツゴツとした岩場をひょいひょいと越えて、さらにその奥に進んだ。
すると、ぽっかりと人が二人入るくらいのスペースが開いていた。
「よいしょっと」
楓はそこに座り、ぼーっと海を眺め始めた。
何をするわけでも、考えるわけでもなく、ただただずっと眺めていた。
冬である今は、他の時期よりも海の青色が濃く、いつもよりも冷たい顔をしている。
楓はなぜかわからないが、夏のうすく爽やかな青色の明るい表情よりも今日のような冷たい海の方が安心するのだ。
「…………」
ザザー、ザザー。
波の音だけが響いている。
波が押し寄せたり、引いたりするのに呼吸を合わせ、海と一体化していく。
「ねえ」
そんな凛とした声と同時に背中を強く押された。
思いがけない衝撃に、バランスを崩し前に倒れ込んでしまったが、海に落ちる前に慌てて地面に手をつく。
「わっ」
楓は驚き、声のした後ろを見た。
後ろにいたのは早苗だった。
「なんだ、早苗か」
「なんだって何よ」
口をとがらせて不愛想に返事をしてくる姿は、教室でのニコニコと優しい早苗とは別人のようだった。
「猫を被るのやめたの?」
「楓の前でくらいそんなことしなくていいでしょ」
楓と早苗は生まれた時から一緒の幼馴染で、唯一の友人だった。
しかし、二人は小学校では一度も話さないので、その事実を知っている人はいなかった。
「あははっ!」
早苗は、楓と違い学校の人気者でたくさんの友人がいるのに、まるで本当の自分を見せられるのは楓だけとでもいうような言い方が面白くて思わず笑ってしまった。
誰かに依存して生きるような弱い人じゃないのにまるでそうであるかのような言葉に、いつの間にかそんな冗談も言えるようになったのかと少し感心した。
「なによ」
早苗はむっとして楓を睨んできた。
楓は深く聞かれるとまた友達を作れだのなんだの面倒なお説教が始まるかもしれないと思い、慌てて話題を変えた。
「あーっと、早苗はどうしてここに来たの?」
この場所は普段他の人がよく使う砂浜から少し遠いところにあり、楓のお気に入りの秘密基地のような場所だった。
誰にも知られていないと思っていたので、早苗に知られていてちょっと残念に思った。
「あんたの家に行ったら、多分海だろうって言われたから、ここかなって」
「あれ、でもこの場所って教えたことないよね?」
「楓って記憶は戻って……、あ、いや、なんでもない」
記憶? 私、記憶喪失とかにはなってないんだけどな、と楓が考えていると、早苗が思い出したように他の話をしてきた。
「そうそう、楓、クラスで噂になっているのよ、海の奥の方で怪しいことしてるって」
「え、そうなの?」
「うん、なんか宇宙人と交信している、とか実は人魚だ、とか変な噂もたってる」
「ええ……、バリバリ人間だし、ただぼーっとしているだけなのになあ」
ちょっとクラスで浮いた存在になるとすぐに変な噂が流される。
人間関係ってたいへんだな、と楓は小学生ながら改めて思った。
「あと、あんたのお母さんも心配してたわよ。遊びに行くっていったって、一人で海に行くばかりで友達と遊ぶ様子がないって、友達いないのかしらって」
「うっ、さすがお母さん……、その通り」
「ふふっ! でも友達の一人や二人ぐらい作った方がいいわよ」
そう言って、早苗はからかうように楓の方を見た。
「えー……、そうだなあ、友達ねえ」
楓は面倒くさそうにつぶやいた。
そんな風に駄弁っていたら、こつん、と何かが楓のつま先に当たった。
「ん? なんだろう?」
「どうかしたの?」
楓が足元を見てみるとつま先には、小さな瓶がぶつかっていた。
「瓶、かな?」
「瓶?」
「どこかから流れ着いたのかな」
楓はそう言いながら瓶を拾い、よく見てみると、瓶は蓋が締まっており中には紙が入っていた。
「なあに、それ。手紙?」
早苗が瓶を覗いてきた。
「そうみたい……」
楓はそう返しながら、瓶の蓋を開けた。
瓶はだいぶ古いのか、蓋が固く締まっていて周りには苔が生えていた。
「ううーん!」
楓は唸りながら、蓋を思いっきりひねった。
すると、蓋はぽんっ、と開き、中の紙が出てきた。
「なんて書いてあるのかしら!」
早苗は楓から手紙を受け取り、読み始めた。
「なになに、『花子(はなこ)へ おれは大丈夫だ。花子も心配しないで元気に暮らしてくれ、必ず戻る ヒロキより』だって」
早苗が手紙を読み終えると、楓はなぜだか安心して、目頭が熱くなった。
「えっ、楓泣いているの!?」
早苗の驚いた声なんて楓の耳には届かない。
楓の中にあるのは、安心感とこれまで海に通っていたのはこの手紙を見るためだったんだ、という思いだけだった。
「……、楓、花子って知っているの?」
「ううん、でも、なんだかこの手紙はとても懐かしい気がする。花子もヒロキも知らない人だけど、なんだか安心した」
楓はよく考えて、でもやっぱり花子やヒロキという名前の知り合いはいないことを思い出してから答えた。
「ふーん」
早苗は自分から聞いてきたくせに、興味なさそうに答えた。
***
その日から楓が海に出かけることはなくなった。
代わりに楓は自分の部屋にこもるようになった。
小学校から帰ってくると真っ先に自分の部屋に行き、海で拾った手紙を何度も読み返す。
また、更にクラスで浮いてしまった楓を見て、早苗は海に行くことを決意した。
楓のお気に入りの秘密基地のあの場所に向かった。
しばらく歩き、目的の場所に着くと、早苗は周りを一度見渡して、誰もいないことを確認すると、
「ねえ、ヒロキ、出てきたら?」
と言った。
その声を合図に風がブワッと巻き上がる。
あまりの強風に思わず早苗は目を閉じる。
次に目を開けた時には、目の前には早苗よりいくつか年上であろう少年がいた。
「ヒロキ……」
「よお、久しぶりだな、静(しず)香(か)」
ヒロキと呼ばれた男の子は早苗に向かってそう言った。
「もうその名前で呼ばないで。今は早苗だから」
早苗はツンッとした態度で答えた。
「ははっ、悪いな、お前は生まれ変われたんだもんな」
ヒロキは早苗を見下ろしながら冷笑した。
「なに、恨んでいるの?」
早苗はヒロキを睨み返した。
「まさか!」
ヒロキは二カッと人の良さそうな笑みを浮かべた。
「ただ、花子は返してもらうぜ」
さっきまでの笑顔が嘘のように真剣な表情で言った。
「はあ?」
「俺の未来も過去も人生もなにもかも全部お前にくれてやる。でも、花子はだめだ」
「……なんで」
早苗は悔しそうな表情でヒロキを見ながら、つぶやいた。
「おいおい、最初に言ってあっただろ? 花子以外の物なら全部お前にやるって」
「……花子には、会わないで」
早苗は小さな声で下を向きながら言った。
「なんでだよ」
「花子は、いま楓っていう名前で生きているわ。花子のことなんて忘れて、新しい人生を歩んでいるの」
「そうだな……」
「だから、このまま普通の幸せを感じていてほしいの」
ヒロキは呆れたように
「あの花子のどこを見てたら幸せそうに見えるんだよ」
と言った。
「え?」
早苗はヒロキの言葉が理解できず顔を上げた。
「前世のことも俺のことも忘れて、しかも今の世界に馴染めないで苦しそうにしか見えないけど?」
「違うわ……」
早苗は弱弱しく答えた。
「確かに、楓は、すごく幸せなんかじゃない。だけど、昔の辛かったことは忘れていられるの。楽しかった出来事も忘れてしまっているけれど、いま普通の子として生きていけるのならそれでいいじゃない」
早苗は自分の思っていたことをヒロキに伝えた。
楓は決して一番の幸せ者ではないけれど、不幸な者でもない、それでいいじゃない、そんな思いも込めてヒロキの目を見つめた。
「それでも俺は、花子に会いたい。俺のことを思い出してほしい」
ヒロキはきっぱりと言った。
「あの子は! なんにも覚えていないのよ!? ヒロキのことも静香のことも自分の前世のことなんてなにひとつ覚えていないの! そんな子に会ってどうするのよ、本当のことを伝えるの?! そんなの、あまりにも、かわいそうよ……!」
早苗は涙ぐみながら叫んだ。
早苗には静香として花子と過ごした記憶も、早苗として楓と過ごした記憶もある。
花子と楓は正反対の性格だった。
どちらの花子も早苗は好きだった。
だから、今世では花子のことは忘れて楓としてこのまま楓の人生を生きてほしいと思っているのだ。
「……わかってるさ」
ヒロキはボソッとつぶやいた。
「え?」
「今の花子は花子じゃないってことも、俺ももうヒロキではいられない」
「それって……!」
早苗はヒロキの言葉を聞いてわかってしまった。
「ああ、もうこの世には留まっていられない、もう消えなければならないんだ」
早苗はその言葉を聞いて涙が止まらなかった。
「いや、いやよ……」
「早苗、ごめん」
「来世なら、花子も思い出すかもしれないじゃない、ね、待っていてよ!」
「……ごめん、そこまでは待てないんだ」
「ど、どうしてなの?」
早苗は前世で自分たちがやったことを今になって悔いた。
だが、あの時はあれ以外の方法はなかった。
「もういいんだ、だから最後に一回だけ花子に会いたいんだ」
全然泣き止む様子のない早苗の頭を撫でるふりをしながら、ヒロキはもう一度早苗に頼む。早苗はヒロキのその動作を見て今のヒロキは触れることすらできないのだと気づいた。
静香も花子もヒロキに頭をなでてもらうのが好きだった。いくら待っていても、もう撫でてもらえないのだと知って涙がさらにあふれてくる。
「早苗、頼む」
早苗はヒロキの花子に会いたいという気持ちが痛い程わかる。自分の人生をかけて守った存在なのだ。最後に一目見てからいきたいのだろう。そして、仕方なく
「わかった……」
といった。
「ただし、楓のことは花子って呼ばないことと、ヒロキって名乗らないっていう約束が守れるならね!」
まだ止まらずに溢れてくる涙を拭い早苗は大きくヒロキに言った。
ヒロキは満面の笑みで
「ああ、もちろん」
と答えた。
花子、ではなく楓に会うためには、今のヒロキは幽霊のような魂の存在のため、実体化する必要があった。
早苗の前世の母親は魔女だったので早苗は前世から軽い魔法が使えた。
今回もその魔法を使って、ヒロキを実体化させた。
「ぷるぺるぱるぺるぱぴぷぺぽん!」
早苗が魔法を唱えるとヒロキの周りが煙に包まれた。
しばらくして、煙が晴れて見えてきたのは先ほどまでと特に変わっていないヒロキだった。
「これで大丈夫なのか?」
変わったという自覚は本人にもない様でヒロキは早苗に聞いた。
「大丈夫よ!」
早苗が自信満々に言うので、ヒロキは信じることにした。
そして二人は楓の家に向かった。
***
楓は今日も学校から帰ってくると、自分の部屋にこもり、手紙を見ていた。
「花子……、ヒロキ……」
初めて聞いたはずのその名前はどこか聞き覚えがあったが、どうしても思い出せない。
「なんだったかなあ」
そうやってここ最近ずっと考えている。
そして、今日も考えて一日が終わるのだろうと思っていた。
「楓、お友達が遊びに来ているわよ」
「お母さん」
そう言って楓の母親が部屋に招き入れたのは、早苗と知らない少年だった。
「早苗、だれ? その人」
早苗の友達だと判断し、早苗に聞いた。
「俺のことは少年Aでいい」
早苗が答える前に自称少年Aが答えた。
「ふーん、少年Aか」
楓は少年Aに少し興味を持ち、全身をよく観察した。
「この人が楓に会ってみたいっていうから仕方なくつれてきたの」
早苗はぎこちない笑顔を浮かべて言ってきた。
いつもは完璧な作り笑顔なのにどうしたのだろうと思ったが、今の楓はそんなことよりも少年Aが気になって仕方なかった。
「ねえ、少年A君はさ、私とどこかで会ったことない?」
「「えっ」」
早苗と少年Aの驚く声が重なった。
「いや、なんか少年A君の声懐かしい気がして」
そう答えると、早苗は苦虫を嚙み潰したような顔をして、少年Aは涙ぐみはじめ、手で目を覆って上を向いた。
「ははっ、お前遅えよ」
「ん?」
楓は分からず、早苗と少年Aを交互に見た。
「思い出し始めるなら、もっと早くがよかったぜ」
少年Aはそう言って寂しそうに笑った。
楓は何を言っているのかさっぱりわからなかったが、なぜか少年Aの寂しそうな顔を見ていると胸が苦しくなった。
「ごめん?」
自分でもなんで謝っているのか分からなかったが、思わず口が動き発した言葉がそれだった。
「ははっ、なんで謝ってんだよ。よくわかってねーくせに」
そういって今度は昔を懐かしむように笑った。
ああ、もう少しで大切な何かが思い出せそう……。
私が今ここにいる理由、ヒロキ、花子について……。
「ごめんなさい、もう時間がないわ魔法が切れる」
早苗は少年Aにそう声をかけた。
「おう」
少年Aは一言そう言って部屋を出ていこうとする。
楓は何か言わなければいけないことがある気がしてならなかった。
魔法? 時間ってなんの? 何をしに来たの?
聞きたいことはたくさんあるのに、何を言えばいいのかわからない。
どうしよう、そう思いながら少年Aの背中を見つめていると、不意に少年Aが振り返った。
「あ、俺の名前ヒロキっていうんだ。楓、よかったら覚えておいてくれよな」
そう言って、二カッと笑った。
「ちょっと! 約束破らないでよ!」
早苗が少年Aを叱っているが、楓にとってはそんなのどうでもよかった。
ヒロキという名前、あの二カッとした笑い方……。
「あ、」
思い出した、思い出した!
ヒロキとはだれなのか、花子について、そして静香のことも……!
「お、おにいちゃん?」
楓はそう言いながら、ヒロキを見た。
「えっ」
ヒロキの体は透けてきていた。
「え、なんで、どういうこと!?」
楓は早苗を見た。
「ごめん、もうこれ以上はヒロキの魂が持たないの」
「そんな……!」
「俺は、思い出してくれただけですげえ幸せ。お前も楓として幸せになれよ」
やっと、思い出せた、やっと、会えたのに、話したい事がたくさんあるのに、また会えなくなっちゃうの?
「早苗、あとは頼んだぞ」
早苗はヒロキにそう言われ、一瞬戸惑っていたが、何かを決意したように深くうなずいた。
「まかせて」
泣きじゃくる楓、泣くのを我慢して笑顔で見送ろうとする早苗。
そんな二人を優しい笑顔で見つめるヒロキ。
「静香には迷惑ばっかりかけたし、花子にはつらい思いをさせたな。ごめん、でも俺は二人と出会えて幸せだったよ」
そう言って、綺麗に、消えた。
「お、兄ちゃん……」
早苗は涙が止まらない楓の顔を掴み、無理やり自分と目を合わさせる。
そして、
「ぷるぺるぱるぺるぱぴぷぺぽん」
魔法を唱えた。
「あ、あれ、なんで早苗ここにいるの? てかなんで私泣いてるんだろう」
楓はただの楓に戻った。
花子のこともヒロキも静香についても何も知らない楓だ。
「なんか、大切なことを忘れてる気がするんだけど……」
早苗も、いままで通りの態度で接する。
「さあ? なんか夢でも見ていたんじゃない?」
「まあ、いっか」
それから楓が海に行くこともなくなり、クラスメイトとも話すようになった。
明るくなって友達もできた。楓に関する変な噂について覚えている人はいなくなり、早苗も楓も普通の女の子として幸せに生活を送っている。
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