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第28話
動けなくなったランレイとシャンシャンを見ながら、さらに体の揺れを激しくするルーファン。
その様子は、誰が見てもご機嫌そのものだ。
「なんなのこれ!? どうして体が動かないんだよ!?」
固まったままのランレイが喚く。
シャンシャンはその横で、うぐぐと表情をしかめていた。
「こいつは……ウイルスだ」
「えッ!? ウイルスだって!?」
シャンシャンの言葉を聞いたルーファンは、ピタリと揺れるのを止めると、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
その目隠しのようなゴーグルのせいで表情はわかりにくいが、動けなくなったランレイとシャンシャンを嘲笑っているように見える。
「正解だよ。でも、今さらって感じだよね? だってもう動けないんだから」
それからルーファンは、ランレイとシャンシャンの動きを止めているウイルスについて話し始めた。
そのウイルスは機械のみに侵食し、その機能を停止させるものなのだと。
「だからね。噂どおり全身義体だった電脳武人さんじゃあアタイには勝てないってことなんだよ」
「くッ!? だが貴様も義体化しているだろう!?」
シャンシャンの言う通り――。
ルーファンの体は両手両足が義体だった。
おそらくシャンシャンは、斬りあいのときに気が付いたのだろう。
だが、彼女――ルーファンの体はどこも黒くなっておらず、自由に動けている。
そのことがシャンシャンには理解できずにいた。
ウイルスに感染した状態で義体を動かすなど、このクローンシティではあり得ないことなのだ。
ルーファンは、疑問を大声で言うシャンシャンの目の前へと立ち、ゆっくりとその両手を広げてみせる。
「そうだね。そのとおりだ。でもさ。最初からウイルスを保持した義体だったらどうかな?」
そして、ルーファンは説明を始めた。
この両手両足の義体は、自分が付けられたときにはすでにウイルスを宿していたと。
「だからさ。簡単にいえばアタイ自身がウイルスみたいなもんなんだよ」
ルーファンの説明を聞いたシャンシャンは、その顔を強張らせた。
そして、そのまま俯く。
「不覚だ。まさかウイルスを身に宿す義体があるとは……」
「シャンシャン……」
悔しそうなシャンシャンを見たランレイが、何か声をかけようとすると――。
「くっ殺せ! この勝負、私の負けだ! 生き恥はさらさん!」
「ああッ! やっぱり出ちゃったよぉぉぉッ!」
シャンシャンの叫びを聞いたランレイは、彼女がまたバラバラになると思ったが、どうやらウイルスのせい――いや、むしろそのおかげで、四肢を切り離す機能も停止しているようだった。
まだ侵食されていない首から上を激しく動かし、シャンシャンは喚き続ける。
「くそッ! バラバラにもなれない。……私は自決することすら許されないのか!? くっ! 早く殺せ! 殺せ殺せ殺せ! くっころぉぉぉッ!」
「性格も噂どおりだね……。なんかアタイ……やる気なくなってきたよ……」
そんなシャンシャンの姿を見たルーファンは、話で聞いていた通りだと、ウイルスの影響もないのに両肩を深く落としていた。
だが、突然喚くのをやめたシャンシャンは、真剣な眼差しでルーファンのことを見始めた。
(命乞いか? まさかな)
そう内心で思っていたルーファンだったが、これほど死にたがっている奴がそんなことを言うはずもないと、自分の頭をボリボリと掻く。
「不能の……ルーファンと言ったか? 頼みがある」
「なんでしょうか? 電脳武人さん」
「私はいい……。貴様の力を見誤った代償は受けよう。だが、そこの猫……彼女だけは見逃してやってほしい」
シャンシャンがそう言うと、人狩りの男たちが前へと出てきた。
そして、口々に言葉を吐き出し始める。
何を自分勝手ことを言っているんだ?
そんな都合の良いことなどあるか!
お前らの身体はバラバラにして、ジャンク屋にでも売りさばいてやる。
――と、動けないシャンシャンを見て、急に強気なことを言い放つ。
「って、依頼主が言ってんだけど。悪いねえ。アタイはこれが仕事なんで」
ルーファンは少し悲しそうな声を出した。
相変わらず目隠しのようなゴーグルで表情はわかりづらいが、あまりランレイへ手を出すことには乗り気ではないようだった。
だが、彼女も仕事としてやっている限り、依頼主の言うことは聞かなければならない立場だ。
自分の気分で仕事を放り出すわけにもいかない。
「イヤだ……イヤだよぉ……シャンシャンもあたしもバラバラにされて売られるなんて絶対にイヤァァァッ!」
今まで怯えていたのか、静かにしていたランレイだったが、自分の最後を聞かされたせいか泣き喚くように叫び始めた。
だが、人狩りの男たちはゆっくり彼女たちへと近づいて行く。
「すまないランレイ。私が弱いばかりに……」
「そんな……諦めちゃダメっだよシャンシャン! 助けて! 誰か助けてぇぇぇッ!」
覚悟を決めたシャンシャンの横で喚き続けるランレイ。
人狩りの男たちが、ついにその手を彼女たちにかけようとした瞬間――。
「はい、そのまま全員こっちにちゅうも~く」
ずいぶんと無気力な女性の声が聞こえた。
ランレイもシャンシャンも人狩りの男たちも、そしてルーファンも――。
その場にいた者すべてがその声のするほうを向いた。
「はい、見てくれたね。で、あんたらさ。これ以上うちの猫とくっころ武人に手を出さないでくれる?」
そこにはチャイナドレスを着た女性――メイユウが眠たそうな顔をして立っていた。
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