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第33話
「……それで、買ってきたものを道端に捨ててきたわけだ」
メイユウは、冷たい声を出しながらランレイのことを見下ろしていた。
ランレイは、そんな彼女に対し、耳を垂らしながら申し訳なさそうにしている。
「いや、別に怒ってないよ。わたしの大好きなトマトケチャップを捨ててきたくらいで怒ったりはしないよ。でもさ、ランレイ。いくら寂しいからってオス猫のお持ち帰りはマズいでしょ?」
「なにを勘違いしてんだ! 人間のあたしがオス猫をお持ち帰りするわけないだろッ!」
本気なのか冗談なのか。
メイユウは機械猫となっランレイが、同じく機械猫のオスを家に連れ込んだと思ったようだ。
そのことに怒鳴りあげたランレイだったが、すぐにその顔をしおらしいものへと変える。
「メイユウ……ごめんなさい……。でも、この子は直してあげてよ」
「なんでわたしがそんな金にもならないことをしなきゃならないんだよ? いいからさっさとそいつを捨てて来なさい。そして、トマトケチャップを取って来なさい」
両手を組んで睨みつけるメイユウ。
ランレイは何も言えず、ただ俯くことしかできないでいた。
「ニャ、ニャア……」
その側で、ランレイが拾ってきた傷だらけの機械猫が呻いている。
そのメタリックな身体からは火花が散っており、痛みはないのだろうが、とても苦しそうにしていた。
メイユウは、苦しそうにしている猫とランレイを交互に見ると、大きくため息をついた。
「わかったよ。直してやる。だからあんたはケチャップを拾ってきな」
「ホント!? ありがとうメイユウ! あたし、取って来る!」
嬉しそうに顔を上げたランレイは、それからトマトケチャップと製麵を捨ててきた場所――壊れかけの機械猫を見つけた路地裏へと走り出していった。
メイユウは、そんな彼女の姿の見送ると二度目のため息をついた。
「まったく、うちにそんな余裕はないってのに。さてと、あいつが帰って来る前に直しちゃうか。うッ!? お、重い……」
そして、壊れかけた機械猫を工房へ運ぶのであった。
その後――。
路地裏からトマトケチャップと製麵を回収してきたランレイは、工房へ駈け込んできた。
よほど心配だったのだろう。
彼女が家を出てから、ものの数分もしないうちに戻ってきた。
「あッ、おかえり~」
「どうメイユウ? その子、直せそう?」
「ただいまくらい言いなさい」
工房の台座に寝かされている機械猫は、すでに修復が済んでいるようだった。
ジャンク屋にあったあり合わせのパーツで補ったせいか、その金属の身体は、まるでヴィクター·フランケンシュタイン博士が造った人造人間のようにツギハギだらけの姿となっている。
ランレイは早速台座へと飛ぶと、横になっている機械猫の傍へと近寄る。
ツギハギだらけとはいえ、傷らだけだった身体が直っているのを見たランレイは、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「一応損傷した箇所はすべて直しておいたよ。ただこの機械猫、見た目のわりには人工知能のほうは最新式の学習するタイプみたいだったね」
「ありがとメイユウ!」
「いいのいいの。お礼なんていらないよ。この猫の修理費は全部あんたの借金にツケとくからね」
「えぇッ!? お金取る気ッ!? しかもあたしからッ!?」
「それはしょうがないことなのよ。この物語のプロットだって最初は女版ブラックジャックを中華風SFにしようとしていんだけど。作者がなにを考えたか、医者と助手よりも機械猫とジャンク屋のほうがSFっぽいかも――なんて思っちゃったもんだから、こんなチグハグなコメディになっちゃったってワケ」
「なにがしょうがないだ! 勝手に作家のアイデアを恥ずかしいことみたいに言ってんじゃねえよ! それいっちゃダメなやつだろ! それに関係ないことで誤魔化してあたしの借金を増すなッ!」
「あのね、ランレイ。あんたはまだ子どもだからわからないかもしれないけど。女同士の会話では、いきなり脈絡のない話をし出すのはフツーにあることなんだよ」
「いきなり人生の先輩風を吹かしてんじゃねえ!」
いつものように、メイユウとランレイの二人が言い合いを続けていると、横になっていた機械猫が動き始めた。
ゆっくりとその身を起こし、メイユウよって付けてもらった前足のおかげで、三本しかなかった足が四本となり、しっかりと立ちあがる。
機械猫は礼をいうようにメイユウとランレイへ頭を下げると、その両目を光らせた。
「えッ? こ、これは……?」
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