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第35話
その後――メイユウとランレイは、機械猫の飼い主がいるハイフロアへ行くため、家を出ていた。
彼女たちは、ネオン看板が眩しい道を、これからどうするかを話しながら歩く。
「バンシーさんがやっていた方法はダメなの? ほら、あの人もハイフロアに住んでいた人だし」
このクーロンシティでは、基本的にハイフロアとローフロアを行き来することは法律で禁止されている。
そこでランレイは、前に『ジャンク屋 メイユウ』に依頼に来た舞台俳優バンシーが使った方法で、ハイフロアへ行けないかと考えていた。
「それは無理だね。あの人は役人に金を渡していたからできたんだよ」
ハイフロアとローフロアを繋いでいるのは、両方の街の中心にあるエレベーターだけだ。
他にも正規ではないルートも存在してはいるだろうが、およそ一般人に知る術はない。
「じゃあ、あたしたちも役人にお金を渡せばいいんじゃない?」
「はい、そこで質問です。そのお金は一体どこからでてくるんでしょうか?」
棒読みで言い始めたメイユウは、次の三択から選ぶようにランレイへと言葉を続けた。
1.メイユウの財布から出す
2.ランレイがバイトしてその金を稼ぐ
3.機械猫に払わせる
「さて、どれになるでしょう? 正解者には『定食屋 飲みだおれ』のメイユウ·スペシャルをごちそうします」
「正解の報酬にまったく魅力はないけど……。じゃあ一番」
ランレイがそう答えると、彼女の隣を歩く機械猫も鳴き声をあげ始めた。
おそらく機械猫もランレイと同じ一番と言いたいのだろう。
ニャーニャー鳴きながら賛同しているようだった。
「ブブ―。はい、二匹とも不正解です。正解はどれでもありませんでした。うちに貯金はありません。老後も不安しかありません」
「正解ないくせにわざわざクイズ形式で訊くなよ……。それと老後が不安ならもっと金を稼ぐ努力をしろ……」
ランレイは、棒読みで答えを言ったメイユウに対して苛立つながらも、言葉を続けた。
ならばエレベーター以外の道を見つけるしかない。
機械猫を飼い主に会わせると決めて家を出たのだから、メイユウには何かハイフロアへと行く目星がついているのではないか、と。
「残念だけど、わたしにはわからんよ。だけど、知ってそうな奴なら知っている」
「あッ! あたしもわかった! あの人のところへ行くんだね」
「あら、わかったちゃった? まあ、こういうことは犯罪者に聞くのが一番早いからね」
メイユウが誰のことを言っているか気がついたランレイは、嬉しそうに歩を進めるのであった。
そして、積み上げられた小屋のような建物の中にある家の前に到着。
メイユウは早速インターホンを押す。
「どうせ見てんでしょ? 早く入れて。じゃないとここで二匹の猫が暴れちゃうよ。あんたのせいで近所に迷惑をかけちゃうよ」
カメラがあるだろう思われる位置で、その死んだ魚の目を向けて言うメイユウ。
ランレイは、その暴力団のような嫌がらせを見て、ただ呆れているしかなかった。
しばらくすると、玄関のドアが開く。
「何しに来たんだよ、ジャンク屋」
ドアからはもの凄く嫌そうな顔をしたシェンリアが登場。
メイユウのいうハイフロアへ行く方法を知っていそうな人物とは、彼女のことだった。
シェンリアは、このクーロンシティ――ハイフロア、ローフロア両方の区画でそれなりに名の通った女性ハッカーである。
頼まれれば、報酬次第でどんな情報でも盗んでくるという凄腕の持ち主だ。
そんなシェンリアならば、当然ハイフロアへ行く方法を知っているだろうと、メイユウは思ったのだった。
「わたしたち、一流ハッカーのシェンリアさんにお願いがあって来ました」
「帰れ……。今すぐ帰れ。アタシはあんたらに構っているほど暇じゃねえんだよ」
メイユウの何か芝居がかった言い方が気に障ったのか。
シェンリアはすぐにドアを閉めようとしたが――。
「ぼくたち」
「わたしたち」
「「一流ハッカーのシェンリアさんにお願いがあって来ました」」
「卒業式風に言い直してんじゃねえよ!」
どうやら事前にこういうように打合せしていたのか。
メイユウは、ランレイと一緒に言葉をそろえて言い直した。
その後、面倒くさくなったのか、シェンリアはメイユウたちを部屋へと入れる。
「なんか前よりも整理整頓されてるね」
「当ったり前だよ。アタシはそこのケチャップ女とは違ってキレイ好きなんだからな」
ランレイがそう訊ねると、シェンリアは口角を上げてそう返事をした
彼女の部屋には、一昔前のパソコンから最新式のグローブ型のインターフェース。
さらにはハイフロアにしかない、宙に映像を映し出すことができるコンピューターも見える。
だが、どうも前よりも機材がすっきりしていて、より効率よくデスクワークができる環境になっていた。
「相変わらずスゴいなぁ、ここは」
ランレイは、以前にもシェンリアの部屋に入ったことがあったが、その電脳部屋ともいえる空間を見て驚いていた。
機械猫のほうもあまり落ち着かないのか部屋を見渡している。
だが、メイユウだけはまったくそういうガジェットに興味なさそうに突っ立っていた。
シェンリアは、コンピューターを使って映し出していた立体映像を切ると、不機嫌そうに彼女たちのほうを見る。
「で、なんのようだよ? またアンドロイドでも捜してほしいのか?」
「いや、今回はもっと難しい問題をお願いしたいんだ」
当然メイユウが彼女たちを代表して答え始めた。
その言葉を聞いたシェンリアは、その表情を強張らせる。
「なんだよ? 揉め事に巻き込まれるのはゴメンだぜ」
「あんたを巻き込むつもりはないんだけさ。というか、この家は客にお茶も出さないの? 合コンでも婚活でも、まずは気配りが大事だよ」
「なに結婚してない友人にアドバイスする既婚者女になってんだテメエはッ!」
シェンリアは文句を言いながらも、結局はメイユウたちへ花茶を出すのであった。
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