第38話

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第38話

それからゴンドラリフトは無事に上にあった場所――ゴンドラの駅へとたどり着く。 ここも下にあった制御室と同じ作りで、やはり埃を被っている状態だった。 「あッ、メイユウ! あれじゃない?」 「どうやらそうみたいね。というか、まだまだゴールは先か」 メイユウたちは、制御室から見える錆びたハシゴに気がついた。 シェンリアの話によれば、このハシゴからハイフロアにある排水処理場の跡地へと繋がっているのだとか。 「で、ここからはわたしがあんたらを運ばなきゃいけないワケね。ダル~」 そして、メイユウが嫌そうながらもランレイとメタルを背負っていく。 それはランレイとメタルの機械猫の身体では、このハシゴを登ることはできないからだ。 メイユウはハシゴを登りながら上を見る。 小型プロジェクターで照らされても先は真っ暗だ。 そんなハシゴの先を見たメイユウは、これではいくら進んでも終わりが見えなさそうだと思っていた。 「メイユウファイト!」 ランレイがそう声をかけると、メタルもメイユウを応援するかのように鳴き声をあげる。 肩にランレイ、背中にメタルと――。 メイユウはその重さに、今にも彼女たちを放り出してしまいたい衝動に刈られていた。 「ああ、なぜわたしがこんな重労働しなけりゃいけないんだ……」 かなりダルそうにハシゴを登っていくメイユウは、そうやってブツブツと言い続けた。 いつも死んだ魚の目をしている彼女だが、慣れない疲労のせいで今にも目の色を失いそうだ。 「上になんか開けれそうなとこが見えてきたよ。もうちょっとだ!」 そんなメイユウのことなど気にせずに――。 ランレイは、もうすぐ本物の太陽が見えると思うと、興奮で本来の目的も忘れてしまいそうになっていた。 それもしょうがない。 彼女は生まれてから一度も、陽の光を浴びたことがなかったのだ。 物語の中でしか知らないものを直接この目で見れると思えば、ランレイくらいの年頃の子供なら誰でもはしゃいでしまうだろう。 彼女がそうなように、ローフロアに生まれた者の多くが、一生のうちに太陽を見ることなく亡くなっていく。 もちろんランレイもそのことは知っていた。 だから、たとえ法律を犯しているとしても、自分は運が良いと笑みを浮かべる。 「ほらメイユウ、早く早くぅ!」 「あまりはしゃぐと下に落ちちゃうよ。いくら機械猫の身体だからって、この高さじゃ確実に死ぬから」 そして、天井――扉の前に到着。 メイユウはその丸い扉に付いたハンドルのようなものを左に回した。 かなり老朽化は進んでいたが、扉は問題なく開く。 「うわ~! 眩しい、とっても眩しいしね!」 ランレイは、照りつける日差しを浴びながら歓喜の声をあげた。 一方メイユウは、怪訝な顔をしながらお尻の部分にある腰袋に手をやる。 「勝手に飛び出しちゃダメだよ。もしかしたら見られてるかもしれないからね」 そう言いながら、そこから黒いゴーグルを取り出して装着した。 シェンリアが、扉の外にあるのは排水処理場の跡地と言っていたが、その建物は原型がないほど辺りが崩壊していた。 天井はなく、壁もほとんど崩れており、建物の中から遠くのほうまでよく見えている。 「えーと、この場所から街が見えるから……って、なんだよ……。街がトマトくらい小さいじゃないか」 かなり離れたところに並ぶハイフロアのビル群。 それを見たメイユウは、まだ到着しないのかと、その両肩をガクッと落としていた。 「もう目の前なんだからあと少しだよ。さあ頑張って行こう!」 「ランレイ……あんたはいいね。楽しそうで……」 そんなメイユウの横ではランレイがピョンピョン跳ねている。 きっと太陽を生で見た興奮に身を任せているのだろう。 メタルの前足を掴んでは掲げ、意気揚々と街を見ていた。 「はあ……。まあ、このままじっとしているワケにもいかないしねぇ……」 いくら疲れていても、先へ進むないことにはハイフロアへは着けない。 メイユウは、嬉しそうにメタルと進んでいくランレイの後を追いかけ始めた。 そして、まるでゾンビのように歩きながら、何もない荒れ果てた道の上でため息をつくのであった。
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