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第39話
それから何もない荒れ地を進み――。
ようやく文明のある場所まで歩いてきたメイユウたち。
木造の家がいくつか並んでいるのが見える。
だが、そこに人の気配はなく、誰もいないゴーストタウンのようなところだった。
「おーい、ちょっと休もう」
「もう、そんなこと言って。さっき休んだばかりじゃないか」
「こっちは生身の人間なんだよ。疲れ知らずのあんたらと同じペースで歩けるかっての」
「そいつはすみませんでした~」
建物自体はそれほど酷く劣化していたわけではないので、メイユウたちはその中の一つに入って休むことにした。
木造の住居内は、家というよりは小屋のような内装で、ベットが一つにテーブル一つといった家具が置いてある。
「早く行かないと夜になっちゃうよ」
かったるそうにベットに腰を掛けたメイユウへそう言ったランレイは、それから窓の外を見ているメタルに気が付いた。
メタルはただハイフロアの並ぶビル群を見てじっとしている。
「大丈夫だよメタル。もう少しでご主人様に会えるからね」
メタルはランレイの言葉を聞いて、その大きな体を震わせて喜んでいた。
ランレイはそう言ったが、それでもまだハイフロアの街は遠く、メタルの飼い主に会うのはもう少し時間がかかりそうだ。
だが、そんな暗いことを言ってはいられないと、ランレイはメタルを元気付けようとしたのだった。
「うん? なんだろこれ?」
ランレイはテーブルの上に、何かスイッチのようなものがあることに気が付いた。
そしてテーブルの上に飛び乗ると、そのスイッチの恐る恐る触れようとする。
「なにやってんの、あんた?」
「ひぇッ!? いきなり声をかけないでよメイユウ。まさかこれって押しちゃマズイやつなの?」
ビクッ驚いたランレイは、そのままメイユウに訊ねてみた。
「そいつはメッセージメモリってやつだよ」
訊かれたメイユウは、そのスイッチが何かを説明し始めた。
メッセージメモリとは、スイッチを押して言葉を録音してくれる伝言記憶装置のこと。
なんでもハイフロアで売られている多くの家具に付けられた、基本的な機能なのだそうだ。
「じゃあ、家族だったり恋人だったりに伝えておきたいことがあったら、このスイッチを押して録音しておけばいいってことかぁ」
「そうそう。ちなみにそのメッセージメモリ、何か伝言が入っているみたいね。ランレイ、ちょっと押してみて」
メイユウにそう言われたランレイは、ポチッとスイッチを押した。
すると、テーブルの裏から人の声が聞こえてくる。
《ここまで来たが、どうやら中には入れそうにねぇ。……くそがッ!》
酷く追い詰められていそうな男の声だ。
どうやらその内容を聞くに、誰かに伝言というよりは、ただ大声で愚痴を言いたいだけのようだ。
《聞いてねぇぞ! ハイフロアにそんな仕掛けがあるなんてよッ!》
メイユウが耳障りだと思ったのか。
スイッチを切ろうとすると、ランレイがその手を止める。
「ちょっと待ってメイユウ。なにかハイフロアのことを言ってるよ」
それから話を聞くに――。
このメッセージメモリを使った男は、メイユウたちと同じようにローフロアから来た人物のようだ。
男は何とかしてハイフロアまでたどり着いた。
だが、街の中に入るために必要なものを持っていなかったために入れなかった。
――と、いつまでもグチグチと言い続けていた。
《ここまで来たんだぞッ! あのゴミ溜めから抜け出して……ようやく太陽の下に来れたってのに……ああ、くそッ!》
いい加減に嫌になったのか、メイユウがメッセージメモリのスイッチを切った。
テーブルの上では、ランレイが唖然とした表情で立ち尽くしている。
「ど、どうしよう……。ハイフロアに入るには何か必要なものがいるんだよ」
ランレイは男の話を聞いて。
このままでは自分たちも彼と同じように、ここから引き返すことになってしまうと思っていた。
「なにか、パスポート的なものがいるんだ。身分証明書みたいなやつ……。ああッ!? なんで気が付かなかったんだ!? あたしのバカ!」
両手を頭に当てて激しく転がり始めるランレイ。
その姿は痒いところに舌や手が届かない猫そのものだ。
「あらあらかわいい」
メイユウはそんな彼女の姿を見てプッと吹き出していた。
「今のあんたを録画して、無料動画サイトに流してたら、広告費だけで大金持ちなれそう」
「そんなこと言ってる場合じゃない! 入れないんだよ!? ハイフロアに入れないんだよ!? それなのに、メイユウはどうしてそんなに落ち着いていられるんだ!」
「なんの心配もいらないよ。ハイフロアにはちゃんと入れるから」
「えッ!? ホントッ!?」
だがメイユウは、どうやって中に入るのかをランレイに説明することはなかった。
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