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第43話
メタルが飼い主に捨てられた理由は、新しいペットを飼うためだった。
その猫の動きや身体を見るに、どうやら本物の猫であろう。
おそらく二匹も飼うことを男の子の両親が許さなかったのだ。
そして、男の子はメタルではなく本物の猫のほうを選んだ。
その理由は、メタルが機械ペットだったからだと思われる。
いくらメタルが最新式の人工知能を搭載していても、本物の猫にかなうはずもない。
この時代では、本物の動物の多くが絶滅しかけていてかなり貴重なのだ。
クーロンシティでは、ハイフロアでもローフロアでも本物の動物を飼うことはステータスであり、裕福であるということの象徴だ。
それは一昔前でいえば、豪邸に住むことや、高級車を乗り回すことと同じである。
きっと男の子は、もうメタルのことなど忘れているだろう。
友だちに新しいオモチャを自慢するように、本物の猫を誇らしく思っているはずだ。
「ひ、酷い……。メタルはまだ元気に動くのに……」
メイユウから――。
本物の動物がどれだけの価値があるかを聞いたランレイは、今にも泣きそうな声でそう言った。
実際に機械ペットやアンドロイドの不法投棄は社会問題になっていた。
少しでも気に入らなくなると、すぐに捨てる人間が多いのだ。
本物の動物とは違い、しょせん機械だからと罪悪感を感じないのもあるのだろう。
だが、それでも不法投棄は禁止になり、機械ペットやアンドロイドは自動的にローフロアへと捨てられることになっていった。
メタルもそんな捨てられた機械の一匹だったのだ。
「メイユウは知ってたんだね……」
ランレイは声を震わせながら訊ねた。
その声には、言葉にはできない悔しさと悲しみが感じられるものだった。
「メタルの飼い主がそういう人だって知っていたのに……どうしてここまで連れて来たんだよッ!?」
ランレイはどこへ向けていいかわからないのか、溢れる感情をメイユウにぶつけ始めた。
彼女へと飛びかかり、その胸の中で暴れている。
メタルに飼い主のあんな姿を見せるべきではなかった。
あの子にこんな悲しい思いをさせるくらいなら、最初から自分たちのところで飼ってやればよかった。
なのに、どうしてなんだ?
どうして教えてくれなかったんだ?
――と、ランレイは泣きながら、ただひたすら喚き続ける。
「それでも、これでメタルも踏ん切りがついたんじゃないの?」
ランレイのことをじっと受け止めていたメイユウが、そうポツリと言った。
そして、いつものように愛想のない声で言葉を続ける。
「あんなご主人様よりもわたしたちといたほうが楽しいってさ」
「メイユウ……」
その言葉を聞いたランレイは、喚くのを止めると、俯きながら静かに泣き出した。
彼女の涙がその白黒のバイカラーの毛の上にポタポタと落ちていく。
「なら、最初から言っておいてよ……」
「いや、いちいち説明するのダルいし。どうせあんたはハイフロアへ行くとか言いそうだし。なら、言わなくていいやって思ったってワケ」
「バカ……メイユウのバカ……」
泣いているランレイに気が付いたメタルは、彼女を慰めようとその体に頭を擦り付けた。
そして、優しくニャアと鳴いた。
ランレイは、泣きながらメタルを抱きしめる。
「メタルはあたしたちと暮らそう。メイユウもそう言ってくれてるよ」
ランレイの生暖かい涙。
そして、そのフサフサの毛をそのメタリックな金属の体に感じながら、メタルは小さく鳴き返すのだった。
「さああんたら、早くうちへ帰りましょう。今日はこんなに体を動かしたもんだから、もう疲れちゃった」
「え~、せっかくだし、もうちょっと見ていきたいなぁ。ねえ、メタル」
「しょうがないねえ。じゃあ、トマトケチャップ買ったら帰るからね」
「おい、なぜお前の目的だけ果たすんだよ……」
いつもしているような会話へと戻ったメイユウとランレイ。
だが、そのときに真っ白な街の中に破壊音が鳴り響いた。
メイユウたちがその音のするほうを見ると、そこには無人の車が建物に衝突していた。
おそらく無人運転システムの安全装置の誤作動だろう。
人を避けようとして建物に突っ込んでしまったのだ。
「あッメタル!? どうしたの!?」
メタルは突然建物へと走り出していった。
メタルは気が付いたのだ。
彼の元飼い主の真上へ、落下物が降って来ていることに。
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