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第45話
ハイフロアから戻ったメイユウとランレイは、またいつものように何もない日常を過ごしていた。
相変わらずジャンク屋へ仕事の依頼はなく、メイユウは毎日のようにただ一昔前のパソコンで動画を見るだけ。
ランレイは日課である買い物で外へ出るくらいだった。
そんな退屈な日々を過ごしていたとき――。
「ごめん……。今日は先に帰るね」
久しぶりに『定食屋 飲みだおれ』来たメイユウとランレイ。
だがランレイは、注文した焼き飯をほとんど残して帰ってしまった。
ろくに言葉を交わさず、顔も俯いてばかり――。
そんな最近のランレイの様子は、誰が見ても元気がないことがわかるものだった。
「おい、どうしたんだランレイのやつ?」
「だよねぇ。ランレイは何があっても絶対に前向きに考えようとする子なのに」
店内にいたシェンリアと、この店の店主兼看板娘であるリーシーが、メイユウへと訊ねた。
二人は、メイユウがランレイへ、何かよっぽど酷いことをしたのではないか? と疑っている。
あのランレイがあそこまで落ち込むくらいだ。
一体どれだけ追い詰めたのだ、と二人はメイユウを問い詰め始めた。
「これじゃああんたらのせいで、あの子以上にわたしのほうがへこみそうだ……」
「てめぇがそんなタマかよ。それよりもなにがあったのか教えろ」
シェンリアはメイユウのことを、親友の男を寝取る女より図太いと言いながら、ランレイに元気がない原因を訊いた。
メイユウは、その言い回しに苛立ちながらも、こないだハイフロアへ行った話――機械猫であるメタルとのことを説明した。
飼い主に会いに行ったが、すでに本物の猫が飼われていたこと――。
落下物から自分を犠牲にしてまで飼い主を助けたというのに、礼の一つも言ってくれなかったこと――。
それから壊れたメタルを助けようともしなかったこと――などが、ここ最近ランレイが元気がない原因だろうと伝えた。
話を聞いたシェンリアとリーシーは表情を曇らせたが、よくある話だと、呟くように返事をした。
二人のそういう態度も当然といえば当然。
このローフロアには、ハイフロアで放棄されたアンドロイドや機械ペットが毎日のように送り込まれてくる。
まれにまだ動くアンドロイドや機械ペットもいるため、それらの個体は、前の飼い主の元へ戻ろうとすることが多いのだ。
そして、結果はメタルと同じである。
シェンリアとリーシーが少し冷たい態度に見えるのも、このクーロンシティでメタルの話は不幸話としてはありきたりな部類に入るからだった。
「でもまあ、あいつはまだ子供だもんな。ああなってもしょうがねぇか……」
「うん……。それに聞いた話よりも、身近な機械猫に起こったことだったんだもん。いくらランレイでも落ち込んじゃうよね……」
だが、シェンリアとリーシーも肩を落としている。
それは、彼女たちが自分でも言っているように、自分たちの身近で起きたことだからだろう。
二人はランレイのことが好きなのだ。
だから、元気のない彼女を見ると落ち込んでしまう。
「ほらほら、あんたたちまで落ち込んでどうすんの? 自分のせいで二人が元気なくなったって知ったら、あの子もさらにへこむよ」
そんなシェンリアとリーシーを見たメイユウは発破をかけた。
たしかにそうだと、二人はメイユウの言葉に頷く。
「メイユウが元気なくても気にしないけど。ランレイにはなにかしてあげたいよね」
「ああ。ジャンク屋がへこんでるのは気にならねえが、あいつがあのまま元気ないのはイヤだよな。ジャンク屋は元気なくていいけど」
「あんたたち……。なんかあの子に甘くない? 別にいいんだけどムカつくわ、その言い方……」
メイユウは、二人がランレイを心配してくれていることは嬉しかったが、その言葉を聞いて怪訝な顔になっていた。
そんなメイユウを無視してではどうしよう? と、シェンリアとリーシーが頭を悩ましていると――。
「フフフ。私に妙案があるぞ」
カウンター席にいた三人へ声をかけてきた人物がいた。
その人物は壁に立て掛けていた青龍偃月刀を腰に背中に収めると、ゆっくりと近づいてくる。
「なんだ? いたのかシャンシャン?」
「なんだと!? 私はお前とランレイが店に来る前からこの席にいたぞ! それなのに気が付かなかったのか!?」
その人物の正体は、全身義体の電脳武人シャンシャンだった。
どうやらメイユウたちが店に入る前から、ずっと席に着いていたらしい。
シャンシャン本人は、メイユウが店に入ったときに目が合ったので気がついていると思っていたのだが――。
「つーかメシの前にそんな小さいこと気がつかないし」
「この結んだ長い髪に青龍偃月刀を持った私と目が合ったというのに気が付かないだと!? ああ……私は悲しい……悲しいぞメイユウゥゥゥッ!」
「わぁ、メンドクサー」
メイユウは、当然泣き崩れるシャンシャンに向かって、まるで死者に鞭を打つように酷いことを呟いた。
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