当たりすぎる予知夢

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 夢を見ていた。  誰もいない坂道で歩いていたのはひとり。  見晴らしのよい崖にたどりつくまでずっとひとりだった。  遮るもののない大きな空には月と太陽が登っている。  太陽をとりまく空気は白く、月のそれは黒い。空はきれいに昼と夜で左右に分かれていた。  ひらりと小さな光が見上げる私の目の先を過ぎていく。  芝生に張り付いた小さな光を拾い確かめる。それは薄い色の花びらで、その時初めてそばに満開の桜の木が立っていることを知った。木の下に人影があることも。  見知らぬ二人の少女たちだった。互いに手を固く握りあいこちらをじっと見ている。  儚い顔立ちの少女たちに降り注がれる花びらは青い空の光を受けて光り、裏は夜の黒さをうけて暗い。落ちる花びらはくるくると表裏を変える。強いコントラストを受けての恐ろしいほどの煌き。あまりにも多くて、少女たちを溶かしてしまいそうなほど。  あなたたち誰なの? と声をかけようと口を開いたところで目を覚ました。 「はぁ~」  起きてすぐにあたしはスマホで夢占いサイトにアクセスした。  印象的な夢のときはいつもそうしてる。あたしの夢はなぜか予知夢になることが多いからだ。  隣で寝ている彼氏を置いてユニットバスのトイレに籠った。前に友達がくれた妊娠検査薬の袋を重い気持ちで開く。  夢占いサイトによると、太陽は『神の力、男』、月は『女神、女』桜は『運命的な出会い』、少女は『か弱さ、自分の娘に対する感情』。そして何よりも二週間もアレが遅れているという現実。  これはもう妊娠してるから早く調べろという警告夢以外考えられない。『男と女が混じって生まれた少女と出会う、しかも双子で』という夢からのメッセージに違いない。 「はぁ、嘘でしょ」  どうか解釈が外れてますように。  親になんて言えばいいのだろう。彼氏だってまだ仕送りしてもらってる大学生なのに。  結果がでるまでの一分間、祈るような気持ちで体温計を見つめる。どうか陽性になりませんように。陽性になりませんように。  その時、ピコンと音がして心臓が跳ね上がる。トイレ脇のバスタブの蓋の上に置いておいたスマホがメッセージの着信を告げていた。手にとって確かめると差出人はお母さんから。  なんで、なんでこのタイミングで連絡が来るの!? 『マヤちゃん、ニュースです。お母さん、妊娠してしまいました』 「はぁ!?」 素っ頓狂な声がでた。嘘でしょ。お母さん四十歳だよ!? 「あはは……若いなあ。え、待って。ということは、あの夢の意味の解釈違ってくる?」  もしかして、月と太陽はあたしのお母さんのお父さんって意味なのだろうか。そして少女のうち一人はあたしでもう一人は新しくできる妹って意味なのでは!? 「そっかあ、そっか、なんだあ、妊娠じゃなかったかあ。良かったあ……え、ええ、陽性!?」  思わず検査薬を落としそうになる。あたしの手の中にある試験薬は陽性に印があった。 「あたしも妊娠!? え、まさか、二人の少女って、私とお母さんのそれぞれの赤ちゃんって意味!?」  茫然と便器に座ったまま狭いユニットバス内で顔を上げた。  そっかあ、そっか、あたしは妹と娘が同時にできるんだあ。  あの夢はお母さんと一緒に出産しなさいという啓示だったんだあ……。  よろめきながらトイレのドアを開ける。布団に目を向けると彼氏の姿はなく、もう起きていて物珍しそうに窓の外を見ていた。 「タ、タカヤ、あのね」 「見ろよ、マヤ。空が変だぞ。昼と夜に分かれてるみたいだ。不吉の前兆だってSNSが大炎上してる」 「そっちの意味もかーい!」  頭を抱えて叫ぶあたしを彼氏は不思議そうに見る。  神と女神が怒ってる的な? か弱い人間に天罰を降らせるみたいなノストラダムス的な夢!?  どんだけ意味を重ねる気なの!?  もう怖くて怖くて。あたしは夢と現実から逃げるべく、布団をかぶって強く目をつぶった。また夢を見ていると気づいた時にはもう遅かった。
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