奴隷の姿

22/44
前へ
/44ページ
次へ
 お召し物を頂いた後、龍さんは家の中を案内して下さった。お屋敷に一人暮らしの龍さんだから、使っていない部屋も沢山ある。 台所や風呂場などを案内して下さった後、最後に道場も見せて下さった。腰に刀をさしていることからも、龍さんは代々武家であるのだろうが、奴隷を助けた一件があってからは表に出て仕事をすることもあまりないのだろうか。正直、竹刀や刀にはいい思い出がない私は、それらからすぐに目を逸らした。    龍さんはこのお屋敷の部屋やお風呂も自由に使っていいと言って下さった。が、そもそも奴隷はお風呂など入れない。ご主人様に命令されるか、使用許可を得ても滅多には使えない。そんな生活をして来た私にとって、軽い様子でそう言った龍さんに戸惑う気持ちが胸を埋めつくしていた。  だが、せっかく良心的にそう言って下さった龍さんだから、それを断るのも失礼だ。そう思った私はその夜、久しぶりにお風呂を使わせて頂くことにした。しばらく水を浴びていない髪は枯れ、長い前髪も胸下くらいまである髪も、無造作に跳ねたりして広がっていた。  実を言うと、お風呂は好きだ。私たちのような奴隷なら特に、滅多には入れない分、入ったときの気持ちよさと言ったら、何ともいい表せない。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加