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掃除が終わって手持ちぶさたになった私は、頂いた履き物に足をかけ、庭に出た。定期的に手入れされているらしい庭はとても綺麗だった。
「父親の趣味だよ。」
振り返ると、龍さんが縁側に立ってこっちを見ていた。
「俺も色々教え込まれて、おかげで今も何とか綺麗なまま保ててる。」
「意外ですね。」
思わず本音が出てしまい、言った後で気づいて口を手で塞ぐが、時既に遅し。
「俺は君にどんな風に映ってるの。」
自分の履き物をはいてこっちに来ながら、慌てている私を見て龍さんは笑った。
「いいって。」
答えに困っている私の頭に龍さんは二回手を置いた。
「さっき言いそびれたけど、着物、似合ってるね。」
失礼の言い訳を聞く前に、龍さんは話を変えるようにそう言った。
「やっぱおまえは赤が似合うなあ。俺の見る目も間違ってないでしょ?」
身なりを気にしたこともなく、何がいいのかなど正直わからないから、そうなんですね、とだけ答える。
「今度新しいの買いに行こうね。母親のお古じゃ悪いからさ。」
「いえ、今お借りしているので十分ありがたいです。」
そんなこと言わずにさ~と、申し出を頑なに断ろうとする私に龍さんは言う。
「今度庭が荒れてきたら手入れ、手伝ってくれる?仕方も教えるよ。」
家事の一環として、私に仕事を任せてくれようとしている龍さんに、私はもちろんですとはっきり答えた。少しは私を客人ではなく奴隷として扱おうとしてくれるようになったのだろうか。それならば本望だと、庭の手入れが出来る日を楽しみに思った。
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