奴隷の姿

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 だが、ある一日だけは様子が違った。  いつものように同じ趣味の悪い客人を呼んで、ご主人様は奴隷の子どもの中でも一番強い私と、一番弱い、いつも竹刀すら振れない彼を呼んで、ある物を渡した。黒い棒のような物は外見で、引っ張ってみると中から鋭い刃が姿を現した。 「今日はこれで打ち合うんだ。危険を感じなければ、本当の力は出せんからなあ。」  ご主人様は本物の武器で私たちを戦わせようとしていることに、その轟々しい(やいば)を目にして気がついた。きっとどちらかが死ぬまでやらせる気だ。  だから私はこのご主人様は趣味が悪いと思うのだ。  ちらっと相手の男の子を見る。その子は今まで以上に震えているのが一目でわかった。  自分が死ぬに決まっている。  そう感じているような表情だった。  もちろん、私も戸惑っていた。  殺すなんて、出来っこない。  「さあ、始めようか。」  真剣を手に立ちすくんでいる私たちを催促するかのように、ご主人様は言った。男の子は私を見た。恐怖に怯えている、その潤んだ目で。  でも、仕方がない。殺さないように、戦うしかない。  私は短刀を抜き、鞘を地面に落として、男の子に向かい合った。
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