奴隷の姿

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 ぐるぐるしたまま眠りについたせいで翌日の目覚めは悪く、朝食の準備中もずっともやもやしてすっきりしなかった。いつもの如く昨晩言ったことも覚えていない龍さんは、何食わぬ顔で食堂に顔を出した。こんなにもやもやしているのは自分だけだと思うと、なんだか苛立つ気持ちが湧いてくる。 「ん?なんか今日元気ない?」 龍さんはそんな私にすぐに気がついたようだ。 あんたのせいだよ。 心の中でそう思いながら、そんなことないですよ、と流しておいた。 よく考えれば、何でもないのに俺のこと好きでしょなんて突然言い出すのは変だ。いつものからかいかもしれないが、もしかすると龍さんにはそういう風に見えているのかもしれない。つまり、私の言動には龍さんに気を寄せていると思わせるようなものが含まれていると言うことだ。  そう考えると、急に私は恥ずかしくなって、その後龍さんと顔を合わせることをためらうようになってしまった。龍さんの姿を見つければ目を逸らしてしまうようなことを何度も繰り返していたある日、ついに龍さんは痺れを切らした。 「何か、最近俺のこと避けてない?」 いつかそう聞かれることくらいわかっていた。でも、私は正直に答えることが出来ず、 「別に避けてないです。」 と嘘を言ってしまった。 「いやいや、避けてるでしょ。何で目を見て言わないの。」 そう言いながら、龍さんは私の顔を覗き込んできた。私は咄嗟に龍さんから身を引いてしまった。 「ねえ、どうしたの?」 流石におかしいと感じた龍さんは私の腕を掴んだ。 「離して!」 私は思わずそう叫んで、龍さんの腕を振り払ってしまった。そんな私を龍さんは驚いた表情で見ていた。きっと龍さんよりも驚いたのは私自身だ。思った以上の大声で龍さんを拒絶してしまったことへの罪悪感から、私は一刻も早くこの場から立ち去りたくなった。 「…すみません。」 私は目を伏せそう謝って、自分の部屋に戻ろうと踵を返して早足で向かった。 「メイ!」 私を呼び止める龍さんの声にも止まらず、ただひたすらに足を動かした。そんな私の後を追ってくる音は聞こえなかった。
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