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「んん?どうした?おまえも抜かんか。早くするんだ。」
尚もガタガタと震えて鞘に収まっている短刀を握りしめたままの彼に、ご主人様は目を向けた。ご主人様の圧を感じた男の子はビクッと体を跳ね上がらせた後、ようやく鞘から短刀を取り出して、構えた。
「始め!」
ご主人様の開始の合図が庭に響き渡る。私は足を踏み出し、いつも竹刀でするように、刀を振るった。目の前を鋭利な刃が勢いよく通った驚きと衝撃で、男の子は後ろに尻餅をついた。腕からは血が流れていた。
「いいぞ!もっとやれ!!」
客人からはそんな声が聞こえてくる。
「おいおい、泣いてるんじゃない。さっさと立て!」
ご主人様は、血を流して地面に尻をつけたまま泣いているその子に声を荒らげた。男の子はいつもより怯えたように泣きながらも、何とか立ち上がって刀を構える。
「やられっぱなしでいいのか?そら、いつもの分をお見舞いしてやれ。」
ご主人様に煽られた彼は、どうにでもなれと割り切ったかのように声をあげて私に向かって走って来た。そして、雑に振った刀の先は見事に私の腕をかすめた。本当のところは、私がその刃を受けに行ったのではあるが。これでおあいこだ。
何も知らない彼らは私から流れる血を見て、いつも泣いて終わってしまうその子が初めて武器を振ったこと、そして見事に相手に傷を負わせたことに誰もが驚き、そして歓声をあげた。
「いいぞ!!!」
「その調子だ!!」
その中でも一番驚いた様子の男の子は、湧き上がる歓声に気分がよくなったのか、まだ枯れない涙を目に溜めながらも再び私に向かって来た。人の気分とはこんなにも大事な要素なのだろうか、今までとは打って変わって男の子の攻撃力がこの一瞬で格段に上がったのを全身で感じた。私は彼の攻撃を防ぐのに精一杯だった。
だが、押され続けていては私も気に入らない。攻撃力が上がったとはいえ、俊敏とは程遠い。だから私は、これまで身につけた力を発揮するように、本気で押しに入ることにした。
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