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戦うことに集中していたため、観客の声は私には届いていなかった。その声が再び聞こえたと思えば、男の子は倒れて体中に切り傷がついていた。
私はと言うと、その子に馬乗りになって短刀を振り上げ、その酷く怯えた顔を目に留めた状態だった。
「どうした!はやくやれ!」
殺し合いを見に来た客は、一世一代の勝利の機会に固まってしまった私に苛立った様子だった。
だが、私は我に返ったのだ。
どうして殺さなければいけないのか。
この子には死ぬ理由も、殺される理由もない。
こんなの、おかしい。
私は周囲の声に耳を貸さず、立ち上がって手を伸ばした。男の子は目に涙を浮かべ、驚いた表情で私を見ていた。
もうこんな馬鹿げた戦いはやめよう。
そう心の中で言った。
私のその声が聞こえたのか、その子は私の手を取った。
だが、その時、
「今だ!!」
という大きな声が聞こえた。その瞬間、相手はぐっと私の手を引いた。それと同時に、私の右下の腹部に激痛が走った。痛みに並ぶように、周囲では歓声が上がった。
これで終わりにすればよかった。
後々この日のことを思い出しては、私はそう後悔し続けることになるのだ。
相手の男の子に刺されたんだと気づいた時、私の中に妙な感情が沸き起こった。その感情は、私の闘争心を酷く駆り立てた。
冷静になる間もなく、私の腕は動いていた。相手が私から刀を抜いた時、私は持っていた短刀をその首元にあて、そして横に引いた。首から飛び出す血が、私の服に、顔にかかり、目の前にいた相手は目をかっぴらいたまま、後ろに倒れた。
再び恐怖に青ざめた顔はその後涙を流すこともなく、地面に倒れたまま動かなくなってしまった。
私はその子を殺した。
首からあふれ出る血で地面が染まっていくのを
見ながら、罪の意識よりも先にその事実を認識したことによって少しばかりの高揚感を感じていた私は、間もなく体の力が抜けて意識を失った。
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