奴隷の姿

9/44
前へ
/44ページ
次へ
 それからも、何度か売り買いされ、今のご主人様の下に行き着いた。  そのご主人様は中々の堅物で、厳しい。掃除をすると、きれいにしたつもりでも、汚れていると騒いでよく私を殴る。料理も、機嫌が悪い時はまずいと言って、全部ひっくり返す。そんなご主人様だった。  その家にはご主人様一人と、奴隷の私だけが住んでいる。  奴隷なんか買わずにさっさと嫁を探せばいいのに。  いつもそう思っている。女の奴隷一人しか置かないのも、夫婦(めおと)ごっこのつもりなんだろうか。まあ、こんなお人だし、おまけに年も五十代とかなりの年齢だから、女も寄りつかないんだろう。そう考えると、少しご主人様が可哀想に思う。  嫁が居ないから、夜の相手もさせられることもある。それは今までに何度か経験があるので、多少のことは知っていた。 奴隷なんかと遊んで楽しいんだろうか。 普段はこき使って、殴っている相手なのに。本当に男はわからない。  私が殺人者であることは、あの事件当時使えていた家の人と奴隷以外、誰も知らない。私も、誰にも言っていない。言う必要もないし、言ったらどうなるか、想像がつかないからだ。だから、今のご主人様も知らない。 もし知ったら、どうなるんだろうか。 すぐに私を売り払うだろうか。 それとも、あの時のご主人様みたいに、気に入ってくれるんだろうか。 わからないけど、驚かれるのは間違いないだろう。  
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加