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ネコガミ様…私が勝手に神様にしたぬいぐるみ…。たいていの願いを叶えてくれる、はずの私だけの神様。 初デートが土砂降りでもよかった。試験に落ちてもよかった。仕事で吐くほど緊張したってよかった。ただ、ただ彼を助けて欲しかった。せめて、お別れがしたかった。看病くらいさせて欲しかった。…最期くらいそばにいたかった。何より今、隣りにいて欲しい。 「会いたい…会いたいよぉ…会わせてよ…ネコガミ様…」 人は亡くなっても49日はコッチにいる…そんな話を彼としたのはいつだっただろう。だったら…。 「ねえ、まーくん、いる?いるよね?いるならなんか合図してよ。…そーだ、コーヒー飲まない?さっき届いたんだ。お気に入りの豆…今淹れるね…ちょっと待ってて。」 私は、膝に乗せていたネコガミ様をソファーに置いて、キッチンに向かう。 届いたばかりのダンボール。ガムテープを剥がすのももどかしくて、強引に開ける。少し伸びすぎていた爪がかける。 「待ってて…待っててね…。」 取り出した袋を、ハサミも使わずに開けようとする。ここにいるかも知れない彼を、なんとか引き止めたくて、見えない彼に話しかけながら。 普段ハサミで開けている袋が簡単に開くはずもない。思いっきり両手に力を込めた瞬間、ビリビリっと不格好に袋が裂け、コーヒー豆が弾け飛んだ。 「ごめん!いま、いま拾うから…!」 無駄にいい香りに包まれて、私は必死で豆を拾い集める。「待って」と「ごめん」を繰り返しながら。 床に水滴が落ちる。ポタポタと落ちる水滴の粒がだんだん大きくなる。悲しみと、怒りと、情けなさと、虚しさと、恋しさと…ぐちゃぐちゃな想いが水滴になって床を濡らす。私はそのまま床に突っ伏して、わんわん泣いた。しゃくりあげて、思いっきり大声を出して泣いた。…どうせ誰もいない家だもの。 鼻をぐすぐす啜りながら、涙をぬぐいながら、コーヒー豆の後片付けをひと通り終えた。泣きつかれて頭がぼんやりする。目もシバシバする。 気がつけばすっかり暗くなっていた。 カーテンを締めに窓際に向かうと、置いたままになったネコガミ様の隣にソーセキがお行儀よく座っていた。 「どこいってたの?おかえり。」 ソーセキは私の目をしっかりと見つめてから「にゃあお」と鳴いた。
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