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彼の時は止まってしまったけど、私の時は本人の気持ちに関係なく先へ先へと進んでいく。私はただ惰性で時間を塗りつぶしていた。
流石に仕事は休んだけれど、いつもの時間にベッドを出て、食事の用意をして、本を眺めて、テレビを眺めて、決まった時間にベッドに入った。
ソーセキも一緒に寝るようになった。22年一緒だった相棒の不在は、やはり寂しいのかもしれない。リビングにいてもキッチンにいても、いつも私の側に寄ってくる。
「ソーセキ、あの人、帰ってこないね。」
私は、美しいブルーグレーの毛を撫でながら言った。
「会いたいね。会いたいよね、ソーセキ。」
コーヒーをばらまいた日に充分泣いたから、もう泣かない、泣かなくても大丈夫と思っていたのに、ふとしたきっかけで、たちどころに視界がにじんでくる。
心配そうに私の顔を覗いていたソーセキが「にゃおん」と鳴いた。私の気持ちを察したように何度も大きな声で鳴いた。まるで代わりに泣いてくれているようで、私は思わずぎゅっと抱きしめた。
「にゃおん。」
ソーセキは、私の腕の中で小さく囁いた。
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