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早く良くなりますように。
早く帰ってきますように。
お見舞いに行けますように。
…最期に会えますように…。
見送れますように…。
彼に会いたい。会いたい。会いたい…。
* * *
電話の向こうでは、まだ、彼のお母さんが話している。私もどうやら、相槌を打っているようだ。
婚約者が死んだという知らせ。電話の向こうのように、私も、泣くべきなのかもしれない。でもまだ、私はその手前だ。
電話を切って、ソファーに沈み込んで、なんとなくテレビを付ける。立ち上がって、キッチンに行って、お湯を沸かして、コーヒーを淹れる。
ソファーに戻って、コーヒーを一口飲んだ。
彼のお気に入りの豆。彼の好きな焙煎と挽き方のコーヒー。もう少しで無くなるから、買わなくちゃ。買わなくちゃ…。
ソーセキが膝に乗ってくる。彼と22年ここで暮らしてきた猫。私の方が新参者で、仲良くなるのに少しだけ苦労した。膝の上のソーセキが「なぁお」と鳴きながら、私の顔を見上げる。
「ソーセキ…まーくんが、死んじゃった…。まーくんが、死んじゃった、よ。」
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