パイナップルの缶詰

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 片想いの食べ物は、パイナップルだ。  世界は片想いであふれている。  スーパーの自転車置き場で、僕の100均で買ったエコバッグの持ち手は、あっさり破れた。  パイナップルの缶詰は、重そうな音を立てて、四方八方に散らばった。その数15個。30個買おうとして、さすがに断念した。  僕はため息をついて、缶詰を拾い上げ、直接自転車のカゴに入れていった。なんたって転がりやすい形状のものだから、けっこう遠くまでいってしまったものもあった。  他人の自転車の車輪の下から、缶詰を救い出していたら、背後に気配を感じた。 「こっちにも落ちてましたよ。」  ベビーカーを押して、買い物バックを肩からかけた女性が、缶詰をこちらに差し出していた。 「ありがとうございます。」  僕は気恥ずかしさで、口の中で、もごもごとお礼を言った。 「たくさんありますねぇ。」と、邪気の無い声で女性は言い、散らばった缶詰を一緒に拾い集め始めた。  世界は片想いで溢れている。  だけど、こうやって、ちゃんと結婚して赤ちゃんがいる人だって、たくさんいるんだよなぁ。  両想いなんて奇跡だ。  多分、僕には一生訪れない。  そんなことを考えながら、「すみません。大丈夫ですから。」などと、もごもご言いつつ女性と一緒に缶詰を拾っていった。  すると、僕の目の前を、すぽーんと水色のものが横切った。 「こらあ!カナタくん!」 女性が立ち上がった。 「また投げて。どうしてそんなに履きたくないの?」  それから僕に向き直った。 「ごめんなさいね。顔に当たらなくてよかった。」  そのとたんにまた、すぽーん。  飛んだのは水色の靴。小さくて、おもちゃみたいな。  ベビーカーにくくりつけられたカナタくんは、靴を投げすて、今度は右の靴下に取りかかるところだった。 「履いたり脱いだり、忙しいんですよね。」 カナタくんママは、疲れた顔で言った。  僕は自転車を押し、カナタくんのママは、ベビーカーを押したり、カナタくんを歩かせながらベビーカーを押したり。  そんな形で、僕ら、でこぼこの3人は、夕方の歩道をゆっくりと進んだ。  靴と靴下を脱ぎ捨てては、履く、歩く、と主張し小さな嵐を巻き起こし続けるカナタくんを、僕は新鮮な目で見守った。 「先に行ってもらって大丈夫ですよ。」  カナタくんのママは、申し訳なさそうに言った。 「普通の3倍くらい時間がかかりますから。」 「いいんです。」  僕は答えた。自転車のカゴいっぱいの缶詰。  ぎりぎりカゴの中に収まっているが、乗って走ったりしたら、飛び出してしまう。  どちらにしろ僕もゆっくり帰るしかないのだ。 「ナカガワヒロキくんは、楓中?」  僕は部活帰りで、中学校のジャージを着ていた。  胸元にローマ字で名前の縫い取り。 「はい。」 「その…缶詰には、何か事情があるの?」
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