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視線に遊ばれる
▪ if章より隼人×渚。
▪日常。ほのえろ。
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「ねぇ、隼人さん」
「あん?」
「視姦って何?」
そう問われた彼が一気に拍子抜けした。
何もない、退屈な午後の出来事だった。
「いきなり何だよ。奏ちゃんにさせろって頼まれたか?」
茶の間に二人きり。互いに暇を持て余し、渚は雑誌を読み、隼人はタバコを吹かしながらの会話。
いつもの日常である。だが、隼人の方は少しだけ楽しそうだ。
「まさか……ここの体験談に、それが気持ち良かったって書かれてたからさぁ」
無造作に円卓に広げられた雑誌。
細い指に指された文を面倒臭そうに辿る紅眼。
だけど彼がそれを読み終える前に、雑誌は渚の膝へと戻されてしまった。
「やっぱり解らないよねぇ。見つめられ過ぎたら恥ずかしいだけだし」
「餓鬼ですか?」
「餓鬼なんですぅ~」
あっかんべーと言わんばかりに渚が不貞腐れた表情を隼人に向ける。それを見、彼は深い溜息を滴らせた。
そうして、隙を突いて鷲掴みにした後頭部。
ぐしゃり、ごつい指と握力が彼女の髪を掴む。
逸らせない視線は重なり、鋭利な紅眼の迫力に呑まれそうになる。
瞬きさえ許されないような眼力。宙を彷徨った次の台詞。彼女は戦慄しながらも、心を静めた。
“また始まった。この人の悪い癖で、これはいつもの事だから”と。
だが、それでもーー眼を背けたい。
このままでは、心臓が突き刺されそうで。
「離してくれる?」
「喋んなよ」
「嫌だよ。何がしたいの?」
「視姦」
彼はあっさりそう言い切った後、ゆっくりと彼女の身体を撫でるように視線を落としていく。
唇、首筋、鎖骨、胸元ーー全てを堪能するように、紅眼は彼女の白肌を滑っていく。
その視線を追えば追う程、彼女は羞恥心と熱に囚われた。逃げたくて、蛇に睨まれた蛙にはなれやしなくて、暴れてみる。が、
「うっ……何でよぉ~……?」
間髪入れずに止められた右ストレート。
彼女の情けない声が漏れた。だが、彼は顔色ひとつ変えず、彼女を見つめる。まるで、獲物を定め狩る前の獅子のように。
「……ねぇ、隼人さん。楽しい?」
慣れは飽き。段々と羞恥心が消え、刺激が冷えた彼女が呆れ混じりの視線で彼を睨める。
「端から趣味じゃねぇわ。続きは奏ちゃんにやってもらえ」
鷲掴みをしていた手はそのまま、鳥の巣を作るかの如く頭を撫でーー無邪気に笑う彼に、また熱を調整されて。彼女はふと思った。
この人に弄ばれる女って、案外幸せなのかもしれない……と。
……END……
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